ストックホルム世界水週間2018 Asia Focusセッションの開催

日本水フォーラムが事務局を務めるアジア・太平洋水フォーラム(APWF)は、2018年~2020年の間、ストックホルム世界水週間の主催者であるストックホルム国際水研究所(SIWI)と、Asia Focusセッション全体のコーディネート役を担う覚書を結んでいます。

本年度は、ストックホルム世界水週間2018(主催:SIWI、期間:8月26日~31日、場所:ストックホルム)の テーマ「水、生態系と人間開発」の観点から、2017年12月に開催した第3回アジア・太平洋水サミットで採択した「ヤンゴン宣言:持続可能な発展のための水の安全保障」(原文・英語邦訳)の具現化に向けて、次の4つのセッションをAPWFパートナー機関とともに開催しました。

(1)「自然循環機能を活かした水管理」
(2)「水に対して賢明で、住みよい環境都市」
(3)「自然環境保全推進に寄与する革新的資金調達」
(4)「水・エネルギー・食料の連環:技術的解決策は有効手段か?」

以下にそれぞれのセッション結果概要を紹介します。

(1)「自然循環機能を活かした水管理」
セッション概要
・開催日時:8月28日 14:00-15:30
・共催機関:IWMI, APWF, ADB, IWC
・モデレーター:IWMI/ ADB
・スピーカー・APWF, Asian Development Bank (ADB), Climate Change and Development Academy, Mongolia, Global Resilience, International Water Centre (IWC), International Water Management Institute (IWMI), Japan Water Forum
≫プログラム及び発表資料はこちら(SIWIウェブサイト、英語)

本セッションでは、ダムをはじめとする大型インフラストラクチャーによる貯水ではなく、自然の恵みを活かした貯水を共有資源として捉え、適切に使用・保全していくための賢明なアプローチについて議論しました。

プレゼンテーション・パネルディスカッションの内容
<事例紹介>
○灌漑や、都市への水供給のみならず、下流の洪水防止にもつながる帯水層へのリチャージ(インド・ベトナム)
○泉や川の流れを健全にする泥炭地資源管理(モンゴル)
○都市、及び都市近郊部における鉄砲水の貯留・貯水(オーストラリア・ブリスベン)
○森林・水田機能を活用した地下水涵養・保全(熊本市)

 上記施策紹介を通じて、技術革新だけでなく、適切な制度設計、地域コミュニティと自治体、民間企業等利害関係者間の信頼構築、多様な意識啓発、キャパシティビルディングプログラムの実施が、持続可能な貯水、及び、その利用・保全につながることが強調されました。

また、自然の恵みを活かした貯水は、水・食料・エネルギーの安全保障、生物多様性の保全にもつながり、災害時においても強靭な水資源となることが確認されました。アジア全体への提言として、今後はこれまで以上に将来を見据えた貯水を計画的に行っていく必要があり、生物物理学的側面のみならず、社会・経済的状況の変化を見据えた研究を行い、場所ことにより適切で持続可能な貯水施策を検討する必要があることが推奨されました。

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(2
)「水に対して賢明で、住みよい環境都市」
セッション概要
・開催日時:8月28日 16:00-17:30
・共催機関:APWF, GWP, ADB, IWC, IWMI, ICHARM
・モデレーター:GWP・APWF 
・スピーカー: Arghyam Foundation, Asian Development Bank (ADB), Arghyam Foundation, Global Water Partnership, International WaterCentre (IWC), International Centre for Hazard and Risk Management (ICHARM), International Water Management Institute (IWMI), Institute of Water Resource and Hydropower (IWRH), Japan Water Forum
≫プログラム及び発表資料はこちら(SIWIウェブサイト、英語)

このセッションでは、事例紹介を通じて、アジアの各都市が、水系生態系を回復させながら、住みやすく、強靭で、持続可能で、生産力のある賢明な都市開発に向けて、どのような取り組みを行っているかについて共有しました。また、現状課題克服に向けて、どのような政策措置や対策を必要があるかについても議論を行いました。

プレゼンテーション・パネルディスカッションの内容
<事例紹介>
○スリランカ・コロンボ(都市における湿地管理)
○インド(水供給・衛生・水源保全を統合的に行う都市地下水管理)
○ベトナム(ビンイェン、フエ、ハサンにおけるADBのグリーンシティ開発)
○ミャンマー、フィリピン、スリランカ(水災害・洪水管理対策実施のためのキャパシティビルディング)
○中国(洪水対策・スポンジシティ)
○北九州市の取組み

上記事例紹介をもとに、水関連生態系を再生し、住みよいまちづくりを行っていくための政策や対策をどう推進してきたか、多様な利害関係者や、コミュニティを巻き込みながら、グリーンで、賢明なまちづくりを形成していく上でのアプローチや課題克服の道筋について議論しました。

<パネルディスカッション>
Mentimeterというオンライン世論調査システムを用い、会場からの意見をもとにした双方向ディスカッションを行いました。
今日急激に発展しているアジア地域では、賢明な水資源管理によるグリーンシティ形成の必要性については徐々に認識されてきているものの、ほとんどの聴講者が、アジアではまだ、都市開発に環境のことがほとんど統合されていないと考えていました。そこで、対策を講じていく上で何が優先課題かについて、という5択[(1)資金、(2)インフラ、(3)ガバナンス、(4)行動の変容、(5)利害関係者の参加)]で質問したところ、ガバナンスと答えた聴講者が大多数でした。

地政学的にも政治経済的にも多様なアジアにおいて、水に対して賢明なグリーンシティの姿はそれぞれ異なるけれども、大切なことは、健康的で住みやすく、活力のあるまちづくりに向けて、どういう道筋を経るか、あらゆる利害関係者が意思決定過程に参加できるような環境作りが必要であることが強調されました。

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(3)「自然環境保全推進に寄与する革新的資金調達」
セッション概要
・開催日時:8月29日 9:00-10:30
・共催機関:ADB, APWF, GWP
・モデレーター:ADB, APWF
・スピーカー:Asian Development Bank (ADB), Alliance for Global Water Adaptation, Global Water Partnership,  Organisation for Economic Co-operation and Development (OECD), World Wide Fund for Nature (WWF)
≫プログラム及び発表資料はこちら(SIWIウェブサイト、英語)

本セッションでは、さまざまな政策環境と開発水準を持つ国々において、生態系保全を促進しながら水や環境課題に対して賢明な解決策を促進することを目的とした様々な資金調達メカニズムを紹介しました。また、アジア地域の経験を共有し、課題について議論をしました。

 プレゼンテーションの内容
○自然を活用した解決策を可能にする条件(韓国の事例)
○グリーンインフラのための気候基金の活用と課題
○ 統合流域管理のためのウォータースチュワードシップの普及と投融資可能な事業の形成
○ 気候基金・グリーンボンド市場動向、及び水インフラ事業を使途としたグリーンボンド発行基準(The Water Infrastructure Criteria Climate Bonds Standard)
○ 中国・赤水河流域における生態系保全にかかる生態系への支払い計画 

<資金調達に係る現状と課題>
アジアでは、99の国際開発・二国間金融機関による気候基金をはじめ、50の公的基金、60のカーボン市場、60もの民間株式ファンド等、気候変動対策に向けた資金が増大・多様化しています。シンガポールは、ASEAN地域のグリーンファイナンス市場のハブとしての役割をリードすることを表明したほか、中国政府がグリーンボンド市場に参入するなど、グリーンファイナンスの取組が加速しています。

 また、世界自然基金(WWF)は、企業による責任ある水資源の統合的管理に向けた行動規範を促すことで、民間資金を動員した投融資可能な事業の形成に着手しています。Alliance for Global Water Adaptation(AGWA)は、気候債券イニシアティブ(CBI:国際NGO)や、世界資源研究所(WRI)、CDP、Caresからなるウォーターコンソーシアムとして水インフラ事業を使途としたグリーンボンド発行基準を公表しました。ウォーターコンソーシアムは、これらを普及することにより、科学的知見と整合性のとれた水関連事業への投資を増やすことを目指しています。

一方で、資金調達にかかる課題として、例えば、気候基金に関しては、案件の採択から実施までの複雑なプロセスにおいて、その国の事情に応じ適切な制度設計を構築していく職員の能力が限られていること等もあり、アジアの各国主導ではなく、ドナーのニーズや関心によるバイアスがかかっているなど、必ずしもその国における持続可能な運用・展開にはつながってはいないことが指摘されました。

また、自然に基づいた解決策を推進するための事業に民間資本を動員する際の障壁として、簡単には短期的な便益や貨幣的価値を表すことができないこと、実績を評価するためのデータが不足していること、関連政策の一貫性の欠如等が指摘されました。民間資金の動員を促すためには、開発金融、企業による社会貢献活動基金等を活用したブレンドファイナンス、河川流域単位での規制の策定や利害調整等、水分野への投資リスク低減に向け、政府機関、民間企業、NGO等が協働で実現性の検証をより一層行う必要があることが言及されました。

 <議論の結果>
本セッションの結論として、アジアにおいて、自然資本を基本とした水環境、及び生態系保全対策を推進するための新たな金融手段を適用していく際には、その地域の特徴やニーズに応じ、注意深く設計する必要があり、それらは強力な法的枠組みとガバナンス構造によって十分にサポートされる必要があること、調達資金使途の透明性の確保の必要性が強調されました。

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(4)ディベート「水・エネルギー・食料の連環:技術的解決策は有効手段か?」
セッション概要
・開催日時:8月29日 11:00-12:30
・共催機関:FAO, APWF, ADB, Australia Water Partnership, IWMI
・モデレーター:APWF
・スピーカー:Asian Development Bank (ADB), Australian Government Department of Foreign Affairs and Trade, Conservation International (CI), Daugherty Water for Food Global Institute, University of Nebraska (DWFI), Food and Agriculture Organization of the United Nations Regional Office for Asia and the Pacific (FAORAP), International Water Management Institute (IWMI), U.S. Geological Survey (USGS), Youth Water Solutions
≫プログラム及び発表資料はこちら(SIWIウェブサイト、英語)

<討論のテーマ>
本セッションでは、アジアにおいて、水・食料・エネルギー・エコシステム連環の中で、「多様な利害関係者による水資源の確保が競争関係である中、技術的解決策は有効手段となりうるのか、それとも注意深く検討をする必要があるのか」、という質問に焦点を当てたディベートを行いました。本セッションは、スピーカーのジェンダーバランスを考慮し、かつユースが参加した革新的なセッションとなりました。

<討論の内容>
討論者は、技術のプラスとマイナスの影響を指摘しあいました。技術的解決策の推進を支持する側の討論者は、事例を引き合いに出し、技術は人々や地域社会に利益や新しい機会をもたらすことを主張しました。技術的解決策に慎重な討論者側は、技術導入により水需要が増え、更なる水不足を引き起こし、水循環の中で、利害関係者間の闘争を引き起こしている事例を用いて、技術的解決策推進論者の反論を行いました。

ディベートを経ていくうち、水需要に対する利害関係者間のバランスに関する議論に焦点が移りました。技術そのものというよりは、相互連環の問題から派生する負の影響、もしくはトレードオフに適切に対処していくための規制や政策措置の実施に取り組む必要性が強調されました。また、ケースバイケースで目的に合った解決策に取り組むために、社会、経済、物理的環境に関する分析をもとに適切な技術や政策、制度を採用し、ネクサス課題に対処していく際のプロセスや手順に焦点を当てていくことの必要性が発信されました。

<討論の結果>
全体として、本セッションでは、ネクサス間の水確保においてWin-Winとなるような取り組みは非常に限られているという結論が導かれました。それ故に、ネクサス課題に対して適切に対処するには、適材適所の技術を採用・活用し情報の普及を行ったり、参加型アプローチを用いて主要な利害関係者間と協議をおこないながら、ネガティブインパクトを避ける方策を吟味していくことの重要性が強調されました。

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(報告者:マネージャー、朝山由美子)

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