「ストックホルム世界水週間2019」が、「社会のための水:誰も取り残されない包摂的な社会へ」というテーマのもと、2019年8月25日~30日にスウェーデン・ストックホルム Tele2 Arenaで開催されました。127か国より1,196機関4,000名が参加しました。
Tele2 Arena(会場) | 会場内の様子 |
日本水フォーラム(JWF)は、アジア・太平洋水フォーラム(APWF)の事務局として、アジア開発銀行をはじめとするAPWFメンバー機関等と、「健全な水循環管理」、「農村部の水と衛生」、「ガバナンス」、「ファイナンス」の観点から4つのアジアフォーカスセッションを共催しました。
この4つのセッションでは、第3回アジア・太平洋水サミット「ヤンゴン」から第4回アジア・太平洋水サミット「熊本」につなげるために、ストックホルム2019のテーマ「社会のための水:誰も取り残されない包摂的な社会へ」に沿い、本地域における先進的取り組みを紹介するとともに、持続可能開発目標6や他の水関連目標を達成させるための方法等を議論しました。アジア太平洋地域で水の安全保障を確立させ、持続可能で包摂的な発展を行っていくために、これまでの取組の成果・知見、依然として残る課題を共有し、さらなる行動に結びつける道筋を提案しました。
また、河川流域単位で水課題に対処するための政策立案、包摂性を維持しつつ、他地域の先進事例を汎用させ、インパクトを最大化させ課題解決する方法等を、事例を紹介しつつ議論しました。
一方で、革新的な資金メカニズムの事例はアジアで増加しているが、最貧困層には必要なサービスや支援が届かず置き去りにされているため、依然として公的資金の投入が必要不可欠であることを強調しました。
4つのセッション共通の議論として、持続可能な政策を策定し、最適な利用可能技術を選択し、現場で実践し、そのインパクトをモニタリングしていく上で、政治的リーダーシップは重要な役割を有することを強調しました。
これらセッションにおける議論の成果は、2020年10月19~20日に熊本市で開催する「第4回アジア・太平洋水サミット」の議論に反映させていく予定です。
アジアフォーカス各セッションサマリー
1. アジア・太平洋地域の水の安全保障の確立に向けた健全な水循環管理(8月27日開催)
(Water cycle management towards water security in Asia and Pacific )
本セッションでは、地理・水文的に多様な状況・規模を有するアジア・太平洋地域において、政策や施策を計画的に実施し、水課題に適切に対処し、持続可能な開発目標6の達成に向けて取り組むために、科学的根拠や各地域の特徴に応じた知見、これらを踏まえた水課題解決方法等に係る事例紹介を行いました。
会場との相互対話型パネルディスカッションでは、各スピーカーの事例をもとに、包摂性を維持しつつ、健全な水循環管理に向けたイニシアティブを他流域等に普及していくために必要な実践的な道筋に関する議論をおこないました。
本セッションの結論として、参加者は、次の重要性・必要性を強調しました。
- 持続可能な政策を立案し、最適な利用可能技術を選択し、現場で実践し、そのインパクトをモニタリングしていくためには、政治的リーダーシップが不可欠である。
- 健全な水循環管理を通じた水の安全保障の達成に向けて必要な変革を行う場合には、水分野及び関連セクターにおける多様な利害関係者間の調整と協力を強化することが必要。
- 越境水課題に対処していく場合には、水関連の決議により不利益な立場に追いやられる、貧困層や脆弱な者の置かれた状況を十分理解し、適切な対処策を選択することが重要。
- 根本的には、水循環管理の持続可能な実施は、科学的な知見に則って、技術的な解決策を求めるだけではなく、人々の振舞いや行動に対していかに対処し、変革を生じさせるかが重要であり、そのためには、その地域の慣習や文化を十分理解していることが成功のカギを握る。
セッション概要・結論・発表資料(英語):
https://programme.worldwaterweek.org/event/8355-water-cycle-management-towards-water-security-in-asia-and-pacific
2. 包摂的なアジア太平洋地域の農村部における包摂的な水と衛生アクセスの改善:持続可能な開発目標達成のための道筋 (8月27日開催)
(Inclusive Asia-Pacific Rural water and sanitation: Pathways to the SDGS)
本セッションでは、アジアの農村部に住む多数の脆弱な人々に対し、必要な資源を調達し、支援を行っていく上での課題を共有し、これら困難を克服するために汎用しうる解決策について議論しました。スピーカーは、先進事例を他に汎用していくための道筋として、データを収集し、状況や状態を把握し、モニタリングを行い、能力開発と共に知識と経験を共有する社会プラットフォームを開発すること、相互の信頼関係の構築(パートナーシップ)、デジタル技術の活用、地域のリーダーシップの役割の重要性について強調しました。
パネルディスカッションでは、スピーカーとセッション聴講者は、発表者の事例に基づき、ストックホルム世界水週間2019のテーマである包摂性の達成を助長、もしくは、妨げうる革新的なアプローチに関する議論を行いました。
その結果、スピーカーとセッション聴講者は、農村コミュニティの最貧困層には必要なサービスや支援が届かず置き去りにされている状況を理解し、各農村コミュニティが置かれた状況とそれが内包する脆弱性について理解することの重要性を確認しました。また、最貧困層のニーズに合った技術的・資金的支援を行うとともに、農村コミュニティ内での関わり方を改善し、コミュニティエンパワーメントを高め、誰も取り残されない包摂的な社会を構築していくことの必要性を強調しました。
セッション概要・結論・発表資料(英語):
https://programme.worldwaterweek.org/event/8364-inclusive-asia-pacific-rural-water-and-sanitation-pathways-to-the-sdgs
3. アジアフォーカス: アジアの水課題に対処するためのガバナンス強化(8月28日開催)
(Asia Focus :Strengthening Governance to address Asia’s water challenges)
本セッションでは、主に、次の3つの観点から、水セクターのガバナンスの改善に向けた議論が展開されました。
(1) 汚職に対処できるよう、水道事業体のコンプライアンスを改善するための施策・能力開発
(2) 科学的知見や水防災投資原則の提供により、多様な利害関係者と対話しながら災害リスク管理政策や施策の立案・実施支援
(3) アジア開発銀行が現在取りまとめを行っている「アジア水開発展望2020」において採択している枠組みや方法論を、タイの水資源管理ガバナンスの改善に適応させた経験
スピーカーとセッション聴講者とのパネルディスカッションでは、水分野のガバナンスを改善していく上で直面している課題やその対策の先進事例から、課題克服にどう汎用させていくかを議論しました。各スピーカーやセッション聴講者は、水道事業体、河川流域委員会、災害リスク管理事務所における革新的技術を用いたデータの収集・活用、制度設計改革、能力開発、パートナーシップ構築の重要性について共有し合いました。
特に、本セッションでは、次のことを強調した。
- 政策決定とその実施には、科学的知見とタイムリーなデータが必要である。
- 効果的なガバナンスを遂行していくためには、各地域・国すべての関係者の技術的管理スキルを高めていく必要がある。
- 公平で持続可能な水資源管理を行うためには、水やサービスが意図されたところ、そして最も必要なところに届き、公平で、持続可能な方法で管理されることが必要である。汚職撲滅のためには、透明性があり、説明責任の所在が明確で、多様な利害関係者の参加による包摂的な意思決定過程の実施が必要である。
セッション概要・結論・発表資料(英語):
https://programme.worldwaterweek.org/event/8383-asia-focus-strengthening-governance-to-address-asias-water-challenges
4. Asia Focus: Inclusive Financing for Water (8月28日開催)
セッション概要・結論・発表資料(英語):
https://programme.worldwaterweek.org/event/8516-asia-focus-inclusive-financing-for-water
5. Water Security for All: Asian Water Development Outlook (AWDO) 2020 (8月29日開催)
セッション概要・結論・発表資料(英語):
https://www.worldwaterweek.org/event/8683-water-security-for-all-asian-water-development-outlook-2020
(報告者:マネージャー 朝山由美子)