3 月 12 日(金)に、国連ハビタット(UN-HABITAT)をスピーカーにお迎えし、「新型コロナウィルスや他の災害に対する脆弱性を低減するための入り口としての水と衛生環境(WASH)」に関する第 8 回 APWF ウェビナーを開催しました。アジア・太平洋地域の UN-HABITAT 職員 6 名より、アジア・太平洋地域全体及びフィジー、ラオス、インド、ミャンマーの各国における新型コロナウィルス(COVID-19)の取組状況を共有して頂くとともに、水・衛生・衛生環境(WASH)の重要性、現場で得られた実体験と教訓を共有して頂きました。
日時:2021 年 3 月 12 日(金)15:30-16:30 |
(概要)
〇UN-HABITAT 是沢福岡本部長
グレーテス国連事務総長から、「COVID-19 の影響を最も受けているのは、質の高い医療にアクセスできず、住宅が不十分で、水や衛生設備がなく、交通インフラが整備されておらず、雇用が不安定な都市、及び都市周辺部の住民であり、 とりわけ、これらの地域の、自営業者、インフォーマルな労働者、女性、移民、障害者などの脆弱なグループに対しては、COVID-19 への対策がより困難であり、これまであった構造的不平等をさらに悪化させることになっている」との発表があり、UN-HABITAT アジア・太平洋地域事務所としては、Covid-19 対応・復興戦略を策定し、各国・地方政府やコミュニティ、住民との協働に着手し、政策的助言や各種技術支援に加え、必要なサービスを提供しているとの報告がありました。
〇UN-HABITAT 都市基本サービス 東南アジア 地域アドバイザーアビ・サルカール 博士
WASH へのアクセス改善は、脆弱性や病気が蔓延することの低減につながるだけではなく、最も脆弱な人々、疎外された人々、遠隔地に住む人々の食料の安全保障の向上も期待でき、WASH事業に参加型アプローチを取り込むことで住民のコミュニティ関連活動への関与を向上させ、WASH事業を契機としたデジタル化は、データギャップの解消の加速化、水管理の改善、水不足対策の向上、気候変動の緩和策と適応策の強化にもつながると指摘しました。
COVID-19 後の復興は、WASH へのアクセス改善に関しても、事前予防の体制づくり、既存のシステムの強化、そして、気候変動という最も困難な脅威への適応策を実施するための絶好の機会と捉えて、多様な効果が発現できるよう配慮していく必要があることを強調しました。
〇フィジー事務所のカルテ氏
フィジー都市部のインフォーマルな居住地における WASH と COVID19 の現況を共有しました。
これらの地域での水供給は、設備もメンテナンスも不十分で、水質も悪く、安定していません。排水や廃棄物の処理対策も適切に行われておらず、住民の衛生意識や安全対策も欠如しています。気候変動と COVID-19 は、これまでの構造的不平等をさらに悪化させています。
これらの状況に対して、UN-HABITAT フィジー事務所では、コミュニティの脆弱性を根本的に理解するために、 フィジーの 270 以上のインフォーマル居住地のマッピングと評価、およびその分類を行っており、今後は、気候変動(洪水、サイクロン)の影響の緩和や、適応策としての基本サービス(衛生施設、歩道、避難所)の改善、安全対策に関する意識や知識の欠如への対応、インフォーマルな居住地においては、土地所有権への対応、高い貧困率と食糧不安への対応を行っていくとの報告がありました。
〇インド事務所のアガルワル氏
インドのより良い復興(ビルドバックベター)のための WASH の介入について、廃棄物処理施設の改善の観点からの取組を共有しました。
インドの COVID-19 感染者数は、米国に次ぐ世界第 2 位で、COVID-19 による死亡者数は、世界第 4 位となっています。
基本的な WASH や廃棄物管理施設へのアクセスの欠如は、パンデミックへの対応に対して、不平等で致命的な影響を及ぼすことが明らかになりました。
2020 年 9 月、インドでは 1 日平均約 183 トンの COVID-19 関連の生物医学的廃棄物が発生しました。このため、廃棄物のリサイクルや処理のプロセスをより強固で信頼性の高いものにし、都市の水・衛生システムの負担を軽減するために、より良いメカニズムやシステムの確立が急務となりました。
2020 年 3 月に、インド政府は病院や検疫地域(家庭を含む)での生物医学的廃棄物の取り扱いに関する初版ガイドラインを発表しました。このガイドラインは、現場でのオペレーションを踏また合理化を行い、2020 年 7 月までに 4 回改訂されました。
UN―HABITAT の貢献として、福岡方式を用いたビジャヤワダの埋立地浄化の事例や、平均で毎月 30 トン捨てられているビジャヤワダとグントゥールの花ごみを回収・管理・エコ製品へのリサイクルを実施し、地元の雇用を創出している事例など、COVID-19 の対応を含む「ゼロ・廃棄物区」における取組事例等を紹介しました。
〇ラオス事務所のトーレス氏
ラオスで実施された COVID19 脆弱性マッピングモデルについての紹介がありました。
脆弱性マッピングモデルは、主要の変数として、1)人口密度、 2)居住地の連結性、3)社会経済的要因、4)移住、5)医療サービスへのアクセスを設定し、GIS を用いた空間分析を行い、国内で最も脆弱な可能性のある地域の詳細な位置と脆弱性指数を算出しました。その結果、ラオスの 4 つの主要都市以外にも、総人口の約 50%が都市部や新興の町に住んでおり、これらの地域では、多くの人々が未だに改善されていない水源を使用し、10%の家庭では手洗い場がなく、WASH 施設が必要であることが分かりました。
〇ミャンマー事務所のアンジェロ氏
ミャンマーで実施された、Covid-19 に関るインフォーマルな居住地の住民への調査とそれを踏まえた対応について報告されました。
ミャンマーの COVID-19 感染症例の 70%がヤンゴン地域で、そのうち 77%がヤンゴン市内で発生しています。ヤンゴンのインフォーマルな居住地には 400,000 人 [8500 世帯](ヤンゴン市総人口の 8%)の住人がいますが、正確で最新の情報へのアクセス不足、水、衛生、医療サービスへのアクセスの低下、移動手段の制限や事業活動の一時的な停止による収入減のリスクにより、ヤンゴンのインフォーマルな居住地に住む都市部の貧困層はCOVID-19 の流行に効果的に対処することが困難であり、政府としても十分な情報に基づいた対応計画を立てることができていませんでした。
そこで、UN-HABITAT は、ヤンゴンのインフォーマルな居住地に住む 1,680 世帯に対して直接調査を行うこととし、その調査結果を踏まえ、
- COVID-19 の予防策を講じた関係者への啓発・情報発信活動の拡大
- インフォーマルな居住地での手洗い場の戦略的な設置
- 水へのアクセスを含め、脆弱なコミュニティに対する基本的サービスの供給
- ホームレスの人々の水、石鹸、衛生設備への十分なアクセス確保
などを実施していくこととしたことが報告されました。
発表資料・動画
(報告者:マネージャー 朝山由美子)