第9回APWFウェビナー 開催報告

 アジア・太平洋水フォーラム(APWF) は、第4回アジア・太平洋水サミット(4thAPWS)開催までの間、アジア太平洋地域49か国の政府職員、大使館職員及び日本政府の職員などを対象に、水分野の知見の幅を広げ、深化させることを目的としてAPWFウェビナーを開催しています。
 4月15日(木)に開催した第9回APWFウェビナーでは、アライアンス・フォー・ウォーター・スチュワードシップ(AWS)アジア・パシフィックCEO ミーガン・マクラウド氏をスピーカーにお迎えし、「ウォーター・スチュワードシップを通じた持続可能な水管理への産業界の参加」について議論を行いました。

概要
 ウォーター・スチュワードシップは、産業界自らが、統合水資源管理(IWRM)に率先して行っていくための一手段です。AWSでは、「水利用者が自らの水利用状況とその影響を理解し、流域ごとに、社会・文化的に公平で、環境的にも持続可能で、経済的にも便益となる持続可能な水資源管理に、協調・包摂的、かつ透明性をもって取り組む [i]」ことを目的に、産業界自らが集水域(Catchment)全体の水資源管理の取り組みを促すよう、国際的な認証制度[ii]を策定・実施しています。
 マクラウド氏はAWSの枠組みを利用して、事業所、流域、サプライチェーンの各レベルで持続可能な流域管理活動を推進している実践例として、飲料メーカー(日本・サントリー)や、ICT分野(中国・崑山市、台湾・台南)、農業分野(南オーストラリア・レンマーク灌漑トラスト)の取り組みを共有しました。
 サントリーは、2018年12月にサントリー天然水 奥大山ブナの森工場において、日本で初めてAWS認証を取得[iii]しました。2020年1月に九州熊本工場でのAWS認証取得は、日本で2番目の事例[iv]です。サントリー熊本工場の事例において、AWSは、サントリーグループの「水理念」に沿った、工場周辺流域における水収支の把握、科学的データに基づく水源涵養活動、工場での節水や水質管理の取り組み、流域内のステークホルダーとの連携や適切な情報公開を高く評価しています。
 飲料メーカーのほか、ICTセクターもAWS認証の取得が顕著となっています。ICTセクターのサプライチェーンの80%以上が、洪水リスクが高い場所に位置しているからです。
 中国・崑山市は、マイクロエレクトロニクスの重要拠点ですが、河川の汚染物質含有量が危機的なレベルに達し、製造業者は政府より操業停止を勧告されました。しかし、崑山市とマイクロエレクトロニクス業界は、操業停止をすることなく、AWSのアプローチを採択することにより、製造業者の水管理の強みと機会を特定し、水管理方法を改め、規制や法的リスクに対処することができました。2017年に崑山市のマイクロエレクトロニクスメーカー9社が、AWSの認証を取得しました。今日では、崑山市はAWSを実施する業界に奨励金を支払い、持続可能な水資源管理を推進しています。
 台湾・台南のTSMC社[v]のAWSを通じた上流から下流までの水資源管理は、生態系の回復を促し、ホタルの生息地の回復にも寄与しています。
 AWSは、農業分野にも適用可能です。南オーストラリアに1887年に設立されたレンマーク灌漑トラスト(地域の灌漑コミュニティに対して水を提供する水道事業体)は、2016年から灌漑集落におけるウォーター・スチュワードシップを実施しています。レンマーク地区全体で4500ヘクター以上をカバーする600人以上の灌漑業者にインフラサービスを提供し、水利用効率を98%改善させました。このAWSの枠組みは、レンマーク地区の環境及びその周辺地域の湿地帯を保護していくための画期的な合意を促し、地元の集水域のステークホルダーとの協働を可能にしました。
 マクラウド氏は、ウォーター・スチュワードシップは、持続可能な流域管理に向けて、産業界の自主的率先行動を通じて、流域地域の協働を促し、環境・社会・経済にも多様な便益をもたらしていることを提示しました。また、AWSの認証制度に取り組む上での民間セクターの動機や制約、取り組みを実施していくために必要な事項をまとめました。
 最後に、マクラウド氏は、今後、行動をさらに加速化させるために、政府機関、金融機関及び各個人に対して提言を発信しました。政府機関に対して、政府による施策と、民間企業によるウォーター・スチュワードシップを通じた取り組みとを結びつけていくことを推奨しました。とりわけ、各事業体にリソースを提供することが限られている政府機関が、企業によるウォーター・スチュワードシップを通じた取り組みを促すことで、流域レベルの水資源管理が推進されることを提示しました。
 金融機関に対しては、ウォーター・スチュワードシップを、民間企業、とりわけ、中小企業に対する持続可能な水利用へのインセンティブとして活用し、民間資金動員の機会を構築することを提案しました。
 各個人に対しては、流域管理は、政府や企業が取り組むこと、という認識を改め、自らも取り組むことにより、多様な利害関係者間の協働を促すこと、民間企業は、技術的な解決策だけではなく、行動変容も合わせて行っていくことの必要性を強調しました。
 聴講者とのディスカッションでは、ウォータ・スチュワードシップを通じた実践は、どう政府機関主導のIWRMを補完するかについて、議論が交わされました。

発表資料・動画
http://apwf.org/9th-apwf-webinar-engaging-industry-in-sustainable-water-management-through-water-stewardship/

[i] AWS (2019) International Water Stewardship Standard v2.0
[ii] AWSは、次の5つのステップごとに、手順と基準、指標を設け、

  1. 水関連のデータを収集して理解する
  2. 水資源管理に取り組み、水資源管理計画を作成する
  3. 計画を実行する
  4. パフォーマンスを評価する
  5. 利害関関係者へ進捗状況を伝達および開示する

次の5つを達成していくことを目的としています。

  • 良い水ガバナンス
  • 持続可能な水収支
  • 良好な水質
  • 重要な水関連地域を健全な状態に
  • あらゆる人々にとって安全な水と衛生、環境衛生

[iii]サントリーの取り組み事例:
日本初!「サントリー天然水 奥大山ブナの森工場」が国際的な水認証Alliance for Water Stewardship(AWS)を取得
https://www.suntory.co.jp/company/csr/highlight/201903/

[iv] サントリー九州熊本工場が「Alliance for Water Stewardship(AWS)」認証を取得
https://www.suntory.co.jp/news/article/13617.html
九州熊本工場では、水源涵養エリアにあたる約420haの森を「天然水の森 阿蘇」とし、森林整備活動を展開。さらに工場周辺の水田で湛水(たんすい)農地「冬水田んぼ」と呼ばれる地下水涵養活動を実施し、「天然水の森」と一体となった涵養活動を行っている。

[v] TSMC社の取り組み
https://esg.tsmc.com/csr/en/focus/greenManufacturing/waterResourceManagement.html
https://esg.tsmc.com/csr/en/update/greenManufacturing/caseStudy/47/index.html

(報告者:マネージャー 朝山由美子)

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