水セクターのインテグリティの強化の重要性に焦点を当てた第11回APWFウェビナーでは、水のインテグリティ・ネットワーク(WIN)が、緑の気候基金-独立インテグリティ・ユニット(GCF-IIU)、及び、インフラ透明性イニシアティブ(CoST)をスピーカーに迎え、水セクター内でインテグリティを主流化していくために何が必要か、気候基金からの融資を得るために必要なインテグリティ基準とは何かを紹介しつつ、政策から実施レベルまで、水セクター内のインテグリティを強化していくための基準やフレームワーク、ツール、グッドプラクティスを共有しました。
第10回APWFウェビナーの開催
- 日時:5月21日(金)16:00-17:30(日本時間)
- トピック:水セクターのインテグリティ(健全性と透明性)の強化:アジア・太平洋地域の水の安全保障を高めていくうえでの重要性
- スピーカー:
- バーバラ・シュライナー ウォーター インテグリティ ネットワーク事務局長
「水セクターのインテグリティの主流化:WINのアプローチと教訓」 - イブラヒム・パム、緑の気候基金独立インテグリティユニット長
「GCFにおけるインテグリティ:プロジェクト認証から実施まで」 - マリア・デ・グラサ・プラド インフラストラクチャーの透明性イニシアティブ(CoST) 上級政策・研究アドバイザー
「水セクターのインテグリティ強化:水・衛生分野におけるインフラ事業の透明性保証プロセス」 - ビナヤック・ダス、 ウォーター インテグリティ ネットワークプログラムコーディネーター、ツール、アジアと気候プログラム
「バングラデッシュ、ネパール、インドネシアの水道事業体、コミュニティ、河川事務所におけるインテグリティマネジメント経験」
ウォーター インテグリティ ネットワーク(WIN) バーバラ・シュライナー事務局長の発表概要
- 水と衛生分野におけるインテグリティとは、公共の利益を目的として水と衛生のサービスを公平で持続可能なやり方で提供するために、既得権と資源を倫理的かつ正当に利用することであること、また、透明性、説明責任、参加、汚職防止を通じて達成していくこと
- 2020年の米州開発銀行の調査によると、汚職を減らすことで、水の分野では7~16%のコスト節約になる。公衆衛生や環境への影響を含む汚職による社会的・経済的コストは金銭的コストよりも大きく、インテグリティを高めていくことは、政治的、財政的、社会的に信用できる水セクターを構築する上で鍵となる。また、水と衛生のインテグリティは、コロナウィルス感染症からの回復、自然災害への強靭性の向上、すべてのSDGs達成の中核となる。
- OECDの水ガバナンス指針を用いたアジア・太平洋地域の水ガバナンス分析によると、アジア・太平洋地域では、インテグリティ、利害関係者の関与、モニタリングと評価が適切に実施されておらず、インテグリティに関しては、ADB加盟国のうち、関連する国際条約や、組織的な汚職防止計画、及び、予算の透明性を追跡するための手段を実施している国は20%未満であることが判明。
- フィリピンの南コタバト州政府の取り組みや、ジェンダー平等の視点を取り入れたインドネシア汚職撲滅委員会(KPK)のプログラムを紹介。
- WINは、水道局、規制当局、政策立案者向けに、参加型のアプローチで、各機関の主要なインテグリティリスクを特定し、課題に対処していくためのインテグリティ・マネージメント・ツールボックス(IMT)を策定し、アジアや、ラテンアメリカ、東アフリカで実際に取り組みを行っていることを紹介
インテグリティーマネジメントの改善に向けた提言
- 特効薬はないが、強力なリーダーシップ、コミットメント、協調体制の構築、利用可能なツールとプロセスの活用により、変化をもたらす。
- 汚職に関する話題は多くの人を不快にさせる。インテグリティを構築していくという視点から汚職撲滅に向けた取り組みを行っていくことが、より良いエントリーポイントとなる。
- 汚職撲滅に向けて、インテグリティを高めていくためのいかなる行動は、現地の状況に適したものでなければならない。
- 政府への提言として、インテグリティ対策は、グッドガバナンスと財務効率の両方を促進し、包摂的で参加型、持続可能で強靭な質の高い成長につながること、また、2022年4月に開催するアジア太平洋水サミットの宣言文書に「水と衛生に対するインテグリティと人権のアプローチを含めることを推奨。
緑の気候基金独立インテグリティユニット(GCF-IIU)のイブラヒム・パムユニット長による発表概要
- 2021年5月現在、アジア太平洋地域におけるGCFのプロジェクトのうち、39%が水関連プロジェクトで、28のプロジェクトを実施している。
- GCFのプロジェクト認定プロセスにおいて、インテグリティは、重要な評価プロセスであり、GCF-IIUが実施しているインテグリティ確保のための包括的な取り組みを紹介
- 主要メッセージとして次のことを強調
- 0%の汚職、100%の気候変動対策 を。
- インテグリティは、水セクターやアジア太平洋地域のGCFプロジェクトには不可欠な要素である。 IIUは、国際的なベストプラクティスに沿った革新的なツールを用いてインテグリティを包括的に確保する取り組みを行っている。
- GCFのプロジェクト事業者は、GCF-IIUから、インテグリティ能力向上のための技術支援を受けることができる。
インフラの透明性イニシアティブ(CoST) マリア・ダ・グラサ・プラド上級政策・研究アドバイザーによる発表概要
- 水インフラにおけるインテグリティ課題について述べ、水セクターのインテグリティ強化に向けたCoSTの活動や経験、及び教訓を共有し、提言を発信。
- CoSTは、強靭で、包摂的、持続可能で誰も取り残されないインフラを普及していくために、政府や、民間企業、市民社会が協働するグローバルイニシアティブです。独立した第三者がプロジェクトのレビューを行いつつ情報開示の量と質を評価し、社会的説明責任を高めていくための活動を行っている。
- CoSTが、2016年から2021年の間に実施した46の水分野のプロジェクト(汚水管理、上水道・給水システム整備、水キオスク、井戸掘削、水害被害軽減、ダム・調整池開発を含む、4億3000万ドル相当)をレビューしたところ、水インフラに共通するインテグリティ課題として、プロジェクトの進展に伴い、透明性が失われていく傾向にあること、 また、情報が散乱し、体系的に情報が公開されていない、適切にデータにアクセスできない等、説明責任を果たしていくための環境が整っていないことが判明。 さらに、46のプロジェクトのうち、30プロジェクトでは、フィージビリティスタディが実施されておらず、準備不足のために、追加作業が生じていること、入札に関しては、不規則で、一貫性がなく、正当性が疑わしい意思決定が行われていることがわかった。
- インテグリティの向上に向けて、根本的な体制を変えていくために、アフガニスタンの国家水資源局の事例を紹介。国家水資源局は、CoSTのアプロ―チを用いて「バックアップユニット」を設立し、1年未満の間に302プロジェクトを調査し、215プロジェクトを設計したところ、計画、入札、納入における不正行為の余地、及び、稼動しないプロジェクトのリスクが減少し、アフガニスタンにおけるSDG6の達成に少し近づくことができたことを報告。
水セクターのインテグリティ強化に向けた提言
- 水インフラの透明性を向上させ、国際的に認められたCoST基準を適用して、情報を体系的かつ、統合的に管理をし、プロジェクトサイクルを通して開示することで水インフラの透明性を高めていくこと。
- 利害関係者を参加させ、水インフラの計画と運用時におけるリスクとグレーゾーンを認識させていくことの必要性。
WIN ビナヤック・ダス、 プログラムコーディネーターによる発表概要
- アジア太平洋地域におけるインテグリティ・マネジメントの経験として、WINがネパール、バングラデッシュ、カンボジア、インドネシアにおいて実施した、インテグリティ強化に向けた取り組みを紹介。 取り組みには、水衛生分野、流域管理、気候変動対策、灌漑管理において、インテグリティを向上していくための各国政府機関やメディア、住民や農家への意識啓発プログラムの実施や、各国の政策や法律にインテグリティを主流化していくための計画策定、実施支援、地域に合わせたインテグリティ評価ツールの策定を含む。
WIN、GCF-IIU、 CoSTの3機関を代表し、共同ステートメントを発信
- 影響力のある気候変動対策を行っていくために、水分野において、インテグリティが重要な役割を担うことを認めること。
- アジア太平洋地域の水の安全保障に向けて、インテグリティ向上に向けた共同の行動を推奨すること。
- 水、インフラ、気候関連プロジェクトに対する現在および将来の投資が適切に活用され、説明責任が果たされるようにすること。
- 水分野、及び、気候変動分野の利害関係者の透明性、説明責任、参加、汚職防止に関する知見と能力開発を支援すること。
- プロジェクトや組織におけるインテグリティ・リスクを評価し、インテグリティを強化していくための、利用可能で確立されたフレームワーク、ツール、方法論を適用すること。
- 「0%の汚職 -100%の気候行動」のための持続可能な気候ファイナンスのアジェンダを実行していくための支援を継続的に確保することにコミットすること。
パネルディスカッションでは、汚職が実際行われているようなところにおいては、汚職を指摘し、直接否定的に批判をするというよりは、インテグリティを向上していくことによるメリットについて語っていくことから始めることにより、インテグリティ向上に向けた考え方の変化につながることについて議論が交わされました。そして、汚職を防ぐための法やルールだけではなく、インテグリティ・マネジメントの概念やアプローチを早い段階で導入していくことの有効性が議論されました。
発表資料・動画
https://www.youtube.com/watch?v=jYZqAdKbFRc
(報告者:マネージャー 朝山由美子)