【セッション概要】
ストックホルム世界水週間2021の第1日目(8月23日)に、NoWNETメンバー機関とのセッションは、昨年のストックホルム世界水週間に引き続き、洪水リスク管理対策として、自然を基盤とした解決策(Nature-based Solutions:NBS)を取り入れていく際の教訓について議論を行いました。
今年のセッションでは、デンマークや、フィンランド、オランダ、日本、韓国の都市における洪水管理として、自然を活かした解決策適用までの道筋、及び、適用して得られた教訓を共有しました。 各国の事例共有を通じて、政治的、財政的、景観的、市民社会的な環境の違いが、都市部の洪水リスクに対処するためのNBSの推進に影響するかどうか、またどのように影響するかを検証し、各々の障壁を克服していくために必要なことを議論しました。
Nature as a Partner: Implementing Nature-Based Solutions Globally (パートナーとしての自然:世界規模で自然を基盤とした解決策を実施する)
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各スピーカーの発表概要
デンマークのGeological Survey of Denmark and Greenland (GEUS), Dept. of Hydrology, Senior scientistのPeter van der Keur博士は、コペンハーゲンの気候変動適応戦略を紹介しました。とりわけ、コペンハーゲンの都市河川環境の再生シナリオを用いて,都市部の地下水氾濫を緩和するために採択した自然に基づく解決策の効果,コスト,利益を評価する計算方法、及び、制度的な意思決定プロセスを共有しました。
フィンランド農林省水管理専門家のAntti Parjanne氏は、フィンランドおよびバルト海地域における洪水リスク管理にNBSを汎用したことによる教訓を発表をしました。同氏は、これら地域で実施しているNBS施策は小規模な流出水を起因とした洪水に焦点を当てている傾向があるが、今後は、単一プロジェクトではなく、より大規模な戦略や資金調達の必要性を指摘しました。長期的に見て、さまざまな手法とそのメリットを広く認知してもらうための方法論を紹介しました。
オランダIHE Delft水文工学科のChris Zevenbergen教授は、アジアとヨーロッパの経験をもとに、NBSが都市の水問題の万能薬になるかどうかを議論しました。事例として、中国・ヨーロッパ水プラットフォームの一環で実施している、スポンジシティ2018-2022に関する中国とヨーロッパの協力事業から得られた教訓を提示しました。Chris Zevenbergen教授は、NBSは、(都市の)持続可能性を実現する費用対効果の高い手段として期待されているが、複数のメリットがある一方、「誰が利益を得て、誰が支払うのか?」という議論により複雑さが増し、各部門間のステークホルダーの参加による調整が不可欠となることを強調しました。また、ブルーグリーン・インフラ(BGI)を拡大していくには新たな資金動員が不可欠であることから、都市部において、NBSの実施を可能にするファイナンス戦略を共有しました。
日本の事例は、中村圭吾 土木研究所 水環境研究グループ河川生態チーム 上席研究員 兼 自然共生研究センター長が「自然を基盤とした解決策(NBS)もしくはグリーンインフラ:流域治水と流域の回復」と題した発表を行いました。都市洪水対策として、NBSを汎用させた事例として、鶴見川の総合治水対策、及び、横浜市の雨水貯留と浸透を通じた、災害被害の低減施策を紹介しました。中村上席研究員は、各NBSの対策は小さくても、大規模に実施されればその効果は大きいことを強調しました。今後の日本の対策として、各河川環境改善で培ったグリーンインフラ技術を流域全体の環境改善に活かしていくことの必要性を強調しました。
韓国の公州 (Kongiu) 国立大学土木環境工学科 Lee-Hyung Kim教授は、韓国の都市におけるNBSを用いた生態系機能の向上に関する発表を行いました。 まず、生態系にとって最も重要なのは水であり、水と緑地の繋がりを断絶させた整備が都市・環境問題を引き起こしていることを指摘し、韓国の各都市において、生態系に対して優しくない社会インフラがどれだけあるかを数値で示しました。これらの分析結果を踏まえて、グレーインフラから、グリーンインフラを導入・展開し、都市環境を改善していくための技術的手法やデザイン例を共有しました。
セッション総括
本セッションのプレゼンテーション、及び、パネルディスカッションの総括として、次のサマリー、及び、キーメッセージを発信しました。
NoWNET NBSセッション2021のサマリー・キーメッセージ 1 NBSの複数のメリットを制度的に主流化する
2 NBSは費用対効果が高く、(都市の)持続可能性を実現するものである。
3 データの共有とモデル化が必要。
4 洪水被害の要因に対処するためには、都市部以外にも目を向ける必要がある。
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NoWNETのNBSセッションは、昨年開催したストックホルム世界水週間におけるNBSセッション同様に大変好評で、セッション開始前に、540人の事前予約者で、満員、キャンセル待ちとなり、ライブでセッションを聴講することができなかった人が続出しました。セッション動画:https://www.youtube.com/watch?v=r6Jk12K_ejc を通じて、ご覧いただけますと幸いです。
プログラム
開会の辞 プレゼンテーション (フィンランド水フォーラム) (オランダ水パートナーシップ) (日本水フォーラム) (韓国水フォーラム) 聴講者を交えた質疑 応答
総括 |
(報告者:マネージャー 朝山由美子)