「ストックホルム世界水週間オンライン2021」の2日目に、 「アジアフォーカス・水瞬間管理」セッションを開催しました。
アジア太平洋地域では、膨大な人口のために、将来にわたって、水の安全保障を確保していくことに圧力が高まっています。新型コロナウイルスの大流行は、アジア太平洋地域の脆弱性を示しました。急速に変化する水と気象の相互作用を、入手可能な最善の科学とデータを用いて完全に理解し、それを各国の一般市民に十分に伝えなければ、健全な水循環、及び、水の安全保障を確保していくために必要なレジリエンスを短期間で達成することはできません。本セッションでは、アジア太平洋地域から多様なスピーカーを招き、水循環のあらゆる要素の理解を深め、レジリエンスを高め、SDG6や他の水関連目標を達成していくために必要な水ガバナンス・メカニズムの検討を行いました。
Asia Focus: Water Cycle Management for resilient and equitable societies
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各スピーカーの発表概要
UNESCAPは、アジア太平洋地域におけるSDG6と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響と対応の関係を探るため、「Accelerating Progress Towards SDG6 in the Asia-Pacific Region in the Context of COVID-19」と題した新しいポリシーブリーフを作成しました。これは、アジア・太平洋水フォーラム(APWF)の4th APWSにおける議論に寄与するために作成されたものです。ポリシーブリーフは、次のページより、ダウンロード可能です。https://www.unescap.org/kp/2021/sdg-6-covid-19-accelerating-progress-towards-sdg-6-asia-pacific-region-context-covid-19
ESCAPの持続可能な都市開発セクションチーフのCurt Garrigan氏の発表では、まず、アジア太平洋地域の2021年におけるSDG6の進捗状況、及び、COVID-19の影響とSDG6に関する分析結果を紹介しました。そのうえで、SDG6を達成するために、「資金調達」、「データと情報」、「能力開発」、「イノベーション」、「ガバナンス」と5つの優先分野及び11の政策提言を発信しました。
日本サニテーションコンソーシアム国際部門マネージャーのPierre Flamand氏は、日本の再生水利用の状況とビションと題し、次の内容の発表を行いました。
1. 再生水利用の背景
2. 日本における再生水利用の現状
3. 下水道ビジョン2100(日本における再生水の進むべき道を含む)
4. 福岡市、さいたま市、香川県多度津町における再生水利用プロジェクトの紹介
5. 教訓とキーメッセージ
結論として、排水の再利用は、水資源への影響や水資源管理に関わるコストやエネルギーを削減するための効果的な選択肢である。排水再利用を水循環の中で効率的かつ費用対効果の高い形で統合するためには、上下水道システムの新たなアプローチが必要であることを強調し、排水再生事業の統合化や、排水再生にかかるコスト・エネルギーを削減する技術開発への取り組みへの期待を込めました。
IWMIのDr. Manohara Khadka博士は、社会科学、特にジェンダー平等と社会的包摂(GESI)のアプローチについて、ネパールと南アジアの水問題解決のための科学的研究に統合するプロセスと結果に焦点を当てたIWMIの研究活動を紹介しました。教訓として、水問題の生物物理的側面と社会的側面の両方を考慮した学際的な科学研究、及び、ジェンダーと社会的包摂のアプローチを水と衛生、衛生環境(WASH)の計画と意思決定に統合することが強靭性向上のためのカギを握ることを強調しました。また、行動提案として、南アジアやネパールでは、農民主導の灌漑開発(FLID)、太陽熱灌漑、コミュニティが管理する水供給システムの拡大が持続可能な解決策となること提示しました。また、女性や社会から疎外されたグループの収入や生活を向上させる水政策、制度的プロセス、科学的イノベーションに投資しつつ、WASHを包括的に改善していくために、地方自治体や水利組合の能力を強化するための支援が必要であることを強調しました。
内閣官房 水循環政策本部事務局 近藤修企画官は、日本の水循環政策、及び、熊本、宮城県、秦野市の事例を紹介し、次の点を強調しました。
- 水を水循環の中で考え、公共の自然として水を考えることが重要。
- 水に関する当局間の協力を促進するためには、国レベルでの制度構築が必要。
- 国の計画を実行に移すためには、流域レベルのアプローチも不可欠である。健全な水循環を回復・維持するために、すべての関係者が参加する水循環管理を採用すべき。
- エビデンスに基づく議論を促進するため、データ管理を強く推奨する。水循環のメカニズムを明らかにするためにも、科学技術が役立つ。
韓国環境研究所の水と土地研究グループ長・研究チームチーフ Ik-Jae (IJ) Kim博士は、韓国の国家水改革の現在の進捗と課題を共有しました。まず、以前の韓国の水分野の制度・組織体制では、水関連法が80以上あり、60以上の計画が、5つの省庁にまたがっていた結果、河川再生プロジェクトにも重複があり、調整不足があったことを指摘しました。そこで、2018年6月8日に国家水改革が行われ、国土交通省と環境省の業務が統合され、環境省の職務として統合水資源管理に取り組むようになったことを紹介しました(政府職員188人、K-Water職員6,000人以上、政府: 6憶円、K-Water: 1,000憶円)。また、首相と専門家が議長を務める水枠組み法が施行され、第1次国家水計画2021-2030を実施していること、4つの流域計画が2022年6月までに策定されることを共有しました。また、水ガバナンス改革により、2017年と2020年のSDG6.5.1(IWRM)がどれだけ進捗したかを提示しました。
UNESCOアジア太平洋地域科学局の上級プログラム専門家 Dr. Hans Dencker Thulstrupは、Assessing SDG progress from the stakeholder perspectiveと題して、APWFの枠組みの一環で、第4回アジア・太平洋水サミット(APWS)での発行を目指して、アジア太平洋地域の水循環管理に携わる専門家や実務者が、水循環の視点から、アジア太平洋地域のSDGの進捗を評価する文書をまとめていることを紹介し、JSC、IWMI、JWFの執筆事例から得られた提言を共有しました。また、アジア太平洋地域の健全な水循環、及び、水関連SDGの達成に向けて、第4回APWSにおいて、各国首脳級の意思決定過程を支援するために、聴講者からの事例提供及び執筆協力を呼び掛けました。
パネルディスカッションでは、水関連SDG目標の進捗を図る際に課題となっているデータ不足をどう解消していくか、新型コロナウイルス感染症による悪影響から回復するために、水循環の観点から、どういった取り組みが必要かを議論しました。本セッションの結論として、次の3つのアクションを提示しました。
アジアフォーカス・水循環管理セッションからのアクション提案 アクション#1 アクション#2 アクション#3 |
プログラム
開会の辞 プレゼンテーション Current Status and Vision for Wastewater Reclamation in Japan Water Solutions for Building Resilience and Equitable Society: Managing WATER on the Sound Water Cycle Policy Current Progress and Challenges of National Water Reform in Korea Assessing SDG progress from the stakeholder perspective パネルディスカッション・聴講者からの質疑応答 サマリー・閉会の辞 |
(報告者:マネージャー 朝山由美子)