第4回アジア・太平洋水サミット実施報告書(日本語)はこちら
1. はじめに
日本水フォーラムが事務局を務めるアジア・太平洋水フォーラム(Asia-Pacific Water Forum=APWF〈参考1〉)は、熊本市との共催で、「持続可能な発展のための水~実践と継承~」というテーマのもと、第4回アジア・太平洋水サミット(Asia-Pacific Water Summit=APWS)を2022年4月23日(土)~24日(日)に熊本城ホール、及びオンラインのハイブリッド形式で開催した。
アジア・太平洋水サミット(APWS)とは、開催国政府・開催地の都市とAPWFが共催する、アジア太平洋地域の首脳級が、地域、及び、各国が抱える水問題に対する認識を深め、その課題解決に向け、強いリーダーシップの発揮や資源の動員を促すことを目的とした国際会議である。
第4回APWSの円滑な実施のため、2019年3月26日、外務大臣、文部科学大臣、厚生労働大臣、農林水産大臣、経済産業大臣、国土交通大臣、環境大臣の共同による閣議請議が行われ、関係行政機関が必要な協力を行うことについて、閣議了解を得て、日本の水分野に携わる多様な関係者と開催の準備に着手することができた。
第4回APWS当日には、天皇皇后両陛下のオンラインによるご臨席を賜ることができた。また、天皇陛下より、開会式で、おことばを賜るとともに、「人の心と水~信仰の中の水に触れる~」と題した記念講演を賜わることができた。
また、開催国代表として、岸田文雄内閣総理大臣には、熊本城ホールで第4回APWSに参加頂き、開会挨拶に加え、首脳級会合において、基調演説をして頂くことができた。 他国からは、17カ国の首脳級、22カ国の閣僚級、9カ国の大使等、及び、アントニオ・グテーレス国連事務総長をはじめ、26の国際機関の長等(表1、及び、表2-2)に第4回APWSに参加頂き、水課題解決や質の高い成長に関するステートメント等を述べて頂くことができた。そして、第4回APWSに参加をした首脳級による、水問題の解決と質の高い社会への変革に向けた共同決意声明である「熊本宣言文書」を全会一致で採択することができた。さらに、「熊本宣言」の趣旨に沿い首脳級から受けた問いに答えるべく、国内外の専門家や実務者等の協力・協働を得て、9つの分科会、4つの統合セッション、2つの特別セッションを開催することができた。これらの議論の成果として、アジア太平洋地域の質の高い成長に向けた明確な道筋を示し、熊本宣言の一部でもある、「第4回APWS議長サマリー」をとりまとめることができた。
表1:第4回APWSの概要
○ 開催日時: 令和4年(2022年) 4月23日(土)・24日(日) ○ 開催目的: ○ アジア・太平洋水サミット首脳級・大臣級参加国:日本を含めて、31カ国 (うち、海外からの首脳級は17カ国) |
2. 第4回APWSにおける議論、プログラム構成、及び各成果
アジア太平洋地域が新型コロナウィルス感染症からの復興の過程で、水問題および複雑に入り組んだ関連諸問題を解決し、次世代に渡って持続可能な発展を可能にしていくためには、健全な水循環を維持または回復しつつ、気候の変化によって激甚化する気象現象と洪水や渇水などの水災害に対する強靭性(Resilience)、安全な水、衛生施設や食料・栄養等へのアクセス、水災害対策、水資源管理などにおける、ジェンダーにとらわれず、貧困層や社会的弱者を含み、誰も取り残されない包摂性(Inclusiveness)、社会活動や環境を保全、維持する持続可能性(Sustainability)のすべてを満足する「質の高い成長」を実現していくことが不可欠である。そこで、第4回APWSでは、アジア太平洋地域において質の高い成長を実現していくために必要なことを科学技術、ガバナンス、ファイナンスの観点から提示すること、及び、「質の高い成長」を下支えする「質の高いインフラ」をハード・ソフトの両面から促進するための議論の枠組み構築した。以下、第4回APWSのプログラムの構成(表2-1)、及び、各プログラムの開催結果を報告する。
(1)開会式
第4回APWSの開会式では、APWFの会長、兼、第4回APWSの議長である森喜朗元首相が開会挨拶を述べ、 国や地域の繁栄の礎は、水で、水の恵沢と脅威をともに受け止め、分かち合う、人間の叡智が求められていること、そして、環境、経済、社会的なつながりの中で、人間の安全保障を実現するには、水問題の解決が不可欠であることを述べた。
天皇陛下からは、今回のサミットにおいて、各国首脳が多様な水問題を解決するための構想や思考を共有し、更には、国際機関、政府機関、NGO、各分野の専門家など様々な人々が集い議論し、叡智を結集して具体的な解決策を探り、アジア太平洋地域、更には世界の水問題の解決、そして、水を通じた全世界の人々の幸福と世界の平和に向けた大きな一歩となることへの願いなどについて、お言葉を賜った。
岸田文雄首相は、開会挨拶で、「水を治めるものは国を治める。水を治めることは地球規模の社会課題を解決することに大きく貢献する。」ことを述べ、強靭で包摂的、持続可能な開発を促進するために、政治リーダーが水問題を牽引する責務、行動を加速させていく使命があることを強調した。
アントニオ・グテーレス国連事務総長は、第4回APWSに対してビデオメッセージを下さり、世界は持続可能な開発目標(SDGs)の達成には程遠く、水資源管理を改善し、強靭性を高め、行動を加速させるためのより良い協力を促進していくための資金動員を優先させなければならないことに言及した。
第4回APWS主催者を代表し、 APWFからは、マーク・パスコ―新議長が、「APWFからの報告」として、APWFの概要、これまでのAPWSの成果、第4回APWS及びその成果の発信に対する意気込みを述べた。熊本市の大西市長は、熊本市の地下水保全の取り組みを共有し、その活動は国連”生命の水(Water for Life)”最優秀賞を受賞するなど、世界的にも高い評価を頂いていることについて共有した。また、第4回APWSの共催を通じて、2016年4月に発生した熊本地震から復興した力強い姿と国内外の皆様からの支援に対する感謝のメッセージを伝えたいと発信した。
そして、サミットの主催地を代表し、熊本北高校の生徒2人がサミット開始を英語で宣言した。生徒は、大人になった自らに、そして将来出会うであろうすべての人に水を守ることの重要性を心から語りたいと思っている。アジア太平洋地域のリーダーの皆様、是非私たちを導いてほしいと発信した。
開会式において、天皇陛下からは「人の心と水~信仰の中の水に触れる~」と題した記念講演も賜った。記念講演の内容は宮内庁のホームページにも掲載されている。
https://www.kunaicho.go.jp/page/koen/show/8
(2)首脳級会合・「熊本宣言文書」の採択、ハイレベルステートメントセッション
4月23日午後に開催した、第4回APWSの首脳級会合では、第4回APWSの成果文書である「熊本宣言文書」の最終議論を行い、第4回APWSに参加をした首脳級の全会一致で採択された。「熊本宣言文書」は、水問題の解決と質の高い社会への変革に向けた首脳級の共同決意声明である。首脳級は、 新型コロナにより広がる被害、その危機に対処する中で、水の重要性と意義を改めて認識し、コロナ禍からの回復において、強靭性、持続可能性、包摂性を兼ね備えた質の高い社会への変革が必要であり、取組みの加速に向けて、「ガバナンスを整える」、「資金ギャップを埋める」、「科学技術へ要望する」ことを宣言した。(概要:図1)。
「熊本宣言文書」 全文ダウンロード先 |
「熊本宣言」文書の採択にあたっては、第4回APWSの対象国すべてに、外交ルートを通じてドラフト文書を共有し、コメントや修正案を求めたほか、第4回APWSに参加をすることになっていた各国と、2022年4月5日にオンラインで準備会合も開催し、アジア太平洋地域の各国が宣言文書ドラフトを確認し、修正案等を共有することで、オーナーシップを持つことができる宣言文書に仕上げることができたことも第4回APWSの重要な成果である。
また、首脳級会合において、岸田文雄首相が基調演説を行い、「熊本水イニシアティブ」を立ち上げて下さった。 岸田首相は、水問題の解決策の一つとして、我が国は、アジア太平洋地域における水を巡る社会課題に対し、気候変動適応策・緩和策両面での取組の推進、及び、基礎的生活環境の改善等に向けた取組の推進の2項目を柱に、官民協働により、デジタル化やイノベーションを活用して我が国の先進技術を活用した「質の高いインフラ」整備等を通じて、アジア太平洋地域の質の高い成長に積極的に貢献すること、そして、その実現に向けて、今後5年間で5000億円の支援を行っていくことを表明して下さった。
熊本水イニシアティブ概要(国交省ホームページ)
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/mizsei/content/001479357.pdf
第4回APWSに参加をした首脳級は、岸田首相により発表された「熊本水イニシアティブ」を評価し、支持した。 続いて、17の各国首脳級も、各国の水課題に関する状況や、「質の高い成長」、及び、水関連SDGsの達成に向けた取組みを共有し、コロナ禍からの復興において、さまざまな水問題を解決するためのリーダーのイニシアティブを発信した。 首脳級会合に続いて、アジア太平洋地域の16の大臣級が「質の高い成長」の実現に向けたステートメントを述べて下さった。さらに、28の国際機関の長やアジア太平洋地域の在京大使等からも、同テーマで、ステートメントを述べて頂いた。
(3)9つの分科会、2つの特別セッション、「科学技術」、「ガバナンス」、「ファイナンス」に関する統合セッションの開催
第4回APWSに参加をした首脳級は、上記首脳級会合において、第4回APWSに参加をしたリーダー、専門家、科学者、そして、すべての関係者に、「熊本宣言文書」の趣旨を踏まえて、「水関連分野において、ガバナンス、ファイナンス、科学技術の 3 つの分野で変革と改善を行うための障壁、突破口、機会、推進方法を特定し、徹底的に議論してほしい。特に、科学技術については、リーダーの分野横断的な意思決定において、どのような役割を果たすべきか答えを導いてほしい」という問いを投げかけた。この問いに基づき、首脳級会合後のサミット1日目の午後、及び、2日目の午前に、国内外の機関が共催した9つの分科会を開催した。各分科会では、水関連SDGsを達成し「質の高い成長」を確保するための配慮事項を明らかにし、それを下支えする「質の高いインフラ」をハードおよびソフト両面から着実に整備していくために必要な行動について、ガバナンス、ファイナンス、科学技術の観点から議論を行い、政策提言が発信されたほか、アジア太平洋地域の先進事例を共有しつつ、各国の状況に応じた課題解決へのアプローチが提示された。 (表3: 分科会トピック・タイトル・共催機関、表4: 各分科会の概要、及び、主要提言)
また、特別セッションとして、アジア太平洋地域の「質の高い成長」実現に向けて、都市から国スケールの事例と教訓を発信した「ショーケースセッション」、及び、アジア太平洋地域の島しょ国が抱える課題に注力した「島しょ国セッション」を開催した。(表5: 特別セッション 主催機関、及び、セッション概要)
サミット2日目の午後には、ガバナンス、ファイナンス、科学技術の観点から、9つの分科会からのメッセージと提言を包括的にとりまとめ、首脳級からの問いに答えた統合セッションを開催し、具体的な行動提案を提示した。 (表6: 統合セッション共催機関、及び、表7: 統合セッションの概要・主要提言)
(4)総括統合セッションの開催
サミットの2日目の午後、3つの統合セッションの開催を終えた後には、総括統合セッション「水を通じてより良いポストコロナ世界を導くー熊本から世界へ、未来へ-」を開催した。 本総括セッションでは、熊本宣言の採択の際に、参加首脳から問われた質問に対して、「ガバナンス」、「ファイナンス」、「科学技術」の観点から明確な回答を導くために、各統合セッション共催機関の代表者が、議論の成果と提言を発信した。 続いて、三つの統合セッションからのメッセージを統合し、持続可能で包摂的、強靭な質の高い社会を構築するために必要なことに関する議論が行われた。さらに、アジア・太平洋水サミット前後に開催されるボン会議、第9回世界水フォーラム、2022ドゥシャンベプロセスにおける議論と成果と協調しながら、2023年「国連水の行動10年中間レビュー会議(以下、2023年中間レビュー会議)」に持ち込んでいくために、どう協働するか、水に関する国際合意の達成、質の高い社会の実現に向け、あらゆる関係者による行動をどう加速することができるかについて議論した。
総括統合セッションの開会挨拶で、総括統合セッションの共同議長を務めた上川陽子衆議院議員・水制度改革議員連盟会長は、熊本宣言で言及された「質の高い成長」を実現させていくことを要求した。また、リープフロッグ、グリーンインフラ、水循環のバロメーターとしての氷河のモニタリング、そして包括的な水リスク管理の重要性を強調した。
タジキスタンのエネルギー・水資源大臣であるDaler Juma氏は、中央アジアの水の利用可能性が2040年までに臨界点に達することを言及し、課題解決に向けた同国の取り組みについて説明した。また、ドゥシャンベで開催予定の第2回国連水行動の10年ハイレベル会合に参加し、実践的な行動を取るよう呼びかけた。
インドネシアのバスキ公共事業・国民住宅大臣は、河川流域管理のためのe-ラーニング、水源から利用者の蛇口までの水の流れに対する投資スキーム、沼地や貯水池の修復などの行動を強調した。
ドイツの環境・自然保護・原子力安全・消費者保護省次官のクリスティアン・ローレダー氏は、水に関するSDGsの進捗を達成するためのパラダイムシフトを求め、セクター横断的、地域横断的な行動の推進がカギを握ると述べた。
ピーター・トムソン国連事務総長特使(海洋担当)は、水源から海までの水循環管理を実現するため、「水と食料を守る」ことを要求した。また、流域全体をとらえた資金調達を奨励した。
すべての人のための衛生と水(Sanitation and Water for All)の最高責任者であるカタリーナ・デ・アルブケルケ氏は、水・衛生・衛生環境(WASH)のコミットメントの完全実施に必要な「協力、一貫性、勇気」を提供するハイレベルな政治的リーダーシップを求めた。また、効果的な行動を展開していくための地域横断的な学習を呼びかけた。
オランダ国際水問題特使のヘンク・オヴィンク氏と、アラル海救済国際基金執行委員会のスルトン・ラヒムゾダ議長は、2023年3月の国連水会議に向けた準備状況を紹介し、この会議は、「根本的に包括的で」「セクター横断的で」「行動指向的な」会合となる、と強調した。
各分科会や統合セッションからの提言を含む本総括セッションの提言は、第4回APWS議長サマリーの基盤となった。
(5)第4回APWS議長サマリー
「第4回APWS議長サマリー」は、第4回APWSに参加した首脳級からの問いの回答として、「持続可能な社会」、「強靭な社会」、「包摂的な社会」の実現に向けて、ガバナンス、ファイナンス、科学技術の観点から、アジア太平洋地域の質の高い成長に向けた明確な道筋と実践的な行動を示し、熊本宣言の一部をなすものである。 9つのテーマ別分科会と4つの統合セッションの発表と意見交換から得られた成果と主要メッセージをもとにまとめられた文書である。持続可能な社会に向けて、統合水資源管理に基づく流域全体の水管理を行い、健全な水循環を回復・維持するために, 領域や異なるレベルのセクター間を超えて協働し、多様な気候、地理、社会経済的条件に合わせること、強靭な社会に向けて、観測、モデリング、データ統合に焦点を当てたオープンサイエンス政策を加速しながら、健全な水循環を促進し、エンドトゥエンドのアプローチをとりながら領域や異なるレベルのセクター間を超えて協働すること、包摂的な社会に向けて、技術、イノベーション、データの分野で若者が解決法を提供し専門性を発揮できるように後押しし、若者の有意義な参画(Meaningful Youth Engagement:MYE)を奨励、着手、支援し、あらゆるレベルで若者-政府間パートナーシップを強化すること、等が提言されている。
さらに、第4回APWSにおいて、分科会に加え、分野横断的に議論され、かつ、熊本水イニシアティブにおいても主要な柱の一つとなっている「水と気候変動、災害リスク低減」に関する提言が、国連2023年水会議、及び、水に関連する課題に対処する他の国際プロセスにおいても、取り組むべき優先行動として位置付けられ、アジア太平洋地域、及び、世界各国・国際社会が課題解決にむけてより一層コミットメントすべきであることを提言している。 第4回APWSで提示された提言やアクションは、サミットの成果として捉えるだけでなく、各々が、実際に行動していかなければならないことであり、あらゆる利害関係者が、様々な水課題の解決やアジア太平洋地域、及び、世界の質の高い社会の構築に向けて、着実にかつ断固たる行動を前進させていく必要があることを強調している。 (第4回APWS議長サマリー概要:図2)
第4回APWS議長サマリー全文: |
(6)アジア太平洋地域の質の高い成長に寄与する先進事例・ロードマップ集
熊本宣言や第4回APWS議長サマリーに加え、アジア太平洋地域の質の高い成長に寄与する先進事例・ロードマップ集を第4回APWSの際に出版・公表することができたことも第4回APWSの重要な成果である。 各分科会主催機関が、各分科会で紹介する先進事例の一部、及び、分科会では時間の都合上紹介することができなかった「質の高い成長」に寄与する先進事例を、「第4回APWS先進事例・ロードマップ集」として、第4回APWS当日に出版・公表することができた。 「先進事例・ロードマップ集」は、JWFのホームページよりダウンロードできる。
(https://www.waterforum.jp/pdf/other/4APWS_Showcases_Roadmaps.pdf)
(7)閉会式
閉会式は、APWF執行審議会副議長のチャンファ・ウー氏が司会を務めた。まず、総括統合セッションの共同議長を務めた、水と災害ハイレベルパネル(HELP)議長のハン・スンス韓国元首相、及び、上川陽子衆議院議員・水制度改革議員連盟会長が総括統合セッションにおける議論のサマリーを発表した。上川議員は、このサミットと熊本宣言の成果をもとに、2023年の国連水会議に向けた重要な議論が行われることを期待していると述べた。
この発表を踏まえ、森APWF会長の代理で、マーク・パスコ―APWF執行審議会議長が第4回APWS議長サマリーを発表した。
閉会式の際には、APWFの議長交代式も行われた。2006年のAPWFの設立時から第4回APWSの開催直前まで、APWF執行審議会の議長として、APWSを含む、日本水フォーラムのAPWF活動に対して様々な有益な助言とともに貢献をしてくださった元ウォーター・エイドCEOのラビ・ナラヤナンさんは、健康上の都合によりAPWF執行審議会議長を退任されることになった。ナラヤナン氏は、退任のことばの中で、APWFはアイデアから始まり、アジア太平洋地域の真の水の声をまとめ、発信するネットワークと認知されるほど、強力な組織へと成長した。共有と学習、そして渇きに苦しむ世界に水の安全保障をもたらすために、私たち全員ができる貢献が今後ももたらされることを願っていると述べた。
続いて、アジア太平洋地域のユース代表(インド)と、九州から福岡の高校生の代表から「ユースからのメッセージ」が発信された。 ユース代表者は、アジア太平洋地域は、世界の若者人口の60%を占め、最も若々しい地域であり、この貴重な資源を最大限に活用する時期に来ていることを言及した。若者は、将来にわたって、持続可能で、包摂的、強靭な社会を構築していくうえで重要な役割を担うことから、各国は、若者の参加と有意義な行動のための道筋を作ること、技術、イノベーション、データの分野で若者が解決法を提供し専門性を発揮できるようサポートをし、若者の有意義な参画を奨励、着手、支援すること、あらゆるレベルで若者-政府間パートナーシップを強化しながら、若者の意思決定プロセスへの参加を促し、イニシアチブが発揮できるよう、安全で働きやすい場を作り、あらゆる段階で若者と多様な利害関係者が協働してしていくことを求めた。
(8)シンポジウム、展示会
サミットの本体会合と並行して、同じ熊本城ホール内でサイドイベントとして、シンポジウムと現地展示会(ウェブ上では、オンライン展示会も開催)を開催した。シンポジウムについては、6つのプログラムが開催され、現地展示会では28のブースが出展された。また、10以上もの関連イベントが開催され、サミットの本体会合以外でも盛り上がりを見せた。(表8 シンポジウム一覧)
3.おわりに
第4回APWSの開催にあたっては、人材も資源も限られた日本水フォーラムの体制下で、コロナウィルス感染症の国内外の感染者数の動向に関する不確実要素も見据えながら、「サミット」として資する開催準備を行うことに苦慮しつつも、熊本市、及び、日本政府の協力を得て、多様な関係者と一丸となって、熊本城ホール、及び、オンラインで開催をする準備を行ってきた。 第4回APWSの開催に向けて、日本水フォーラムに協力をして下さった皆様方に心から感謝を申し上げる。
この第4回APWSの開催準備の過程、第4回APWSは、SDGsの目標6「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」に関する集中行動期間として設定された「国連水の国際行動の10年」の中間レビューに向けたマイルストーンの一つとして、国連決議の中に位置付けることができた。中間レビューは2023年3月に国連本部で46年ぶりに水に注力して開催される「国連水会議」である。日本水フォーラムは、アジア太平洋地域のSDGsの達成、及び、「質の高い成長」に向けて、アジア太平洋地域の英知と提言をとりまとめた「熊本宣言文書」、「第4回APWS議長サマリー」、及び、その参考文書である「質の高い成長の実現に寄与するショーケースとロードマップ集」を国際社会に発信し、アジア太平洋地域および世界の水課題の解決に寄与していくための取組みを、国内外の政策決定者、専門家、実務者等と協働しながら継続的に行っていく。
表2-1: 第4回APWSプログラム
2022年4月23日(土) |
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10:00- |
開会式 (司会:住田 元NHKアナウンサー) ・開会挨拶: 森喜朗 第4回APWS合同実行委員会委員長/アジア・太平洋水フォーラム 記念講演: 天皇陛下 |
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昼食 |
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12:50- |
首脳級会合 首脳級によるステートメント (現地) (オンライン) (ビデオメッセージ) |
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コーヒーブレーク |
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15:40- |
ハイレベルステートメントセッション |
分科会1 |
分科会2 |
分科会3 |
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コーヒーブレーク |
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17:30- 19:00 |
特別セッション |
分科会4 |
分科会5 |
分科会6 |
2022年4月24日(日) |
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9:00-10:30 |
特別セッション |
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コーヒーブレーク |
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11:00-12:30 |
ハイレベルステートメントセッション |
分科会7 |
分科会8 |
分科会9 |
昼食 |
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14:00-15:30 |
統合セッション1 |
統合セッション2 |
統合セッション3 |
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コーヒーブレーク |
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16:00-17:30 |
総括統合セッション |
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コーヒーブレーク |
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18:00-18:35 |
閉会式 (ファシリテーター:APWF執行審議会副議長 チャンファ・ウー氏) ・セッション報告(総括統合セッション 共同議長:ハン・スンス氏、上川議員) ・APWS 議長サマリー発表(マーク・パスコー氏(森議長からの指名)) ・APWF 執行審議会議長の交代報告(ラビ氏、マーク・パスコー氏) ・ユース(海外)による閉会宣言(オンライン) ・閉会にあたって(国土交通副大臣) ・閉会挨拶(熊本市長) |
表2-2 ハイレベルステートメント スピーカー名
○ 23日午後 (現地) (オンライン) (ビデオメッセージ) |
○ 24日午前 (現地) (オンライン) (ビデオメッセージ) |
表3: 分科会トピック・タイトル・共催機関
1: 水と災害/気候変動
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気候変動の下で持続可能でレジリエントな道筋に移行するための関係当事者全員によるエンドトゥエンドの努力 |
【国内機関】水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM)、水と災害ハイレベルパネル(HELP)事務局、文部科学省、環境省 |
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2:水と食料
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アジア地域の農業部門における持続可能な水管理 |
【国内機関】農林水産省 |
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3: 水供給
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すべての人の安全で安価な飲料水への普遍的かつ平等なアクセス |
【国内機関】国際協力機構(JICA) |
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4:衛生・汚水管理 |
持続可能な開発に寄与する適切な汚水管理の実現に向けて |
【国内機関】日本サニテーションコンソーシアム、国土交通省(下水道部)、環境省 |
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5: 水源から海までの水と環境 |
水源から海までの水と環境: 持続可能な自然・社会環境のためのマルチレベルガバナンス |
【国内機関】土木研究所流域水環境研究グループ、国土交通省(河川環境課)、リバーフロント研究所 |
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6: 水と文化と平和
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水を通じた平和と地域の安定-歴史と文化から学ぶ― |
【国内機関】政策研究大学院大学(GRIPS) |
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7: 水と貧困/ ジェンダー
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貧困削減とジェンダー平等を加速させるための水セクターにおける科学と政策の協働 |
【国内機関】東京大学未来ビジョン研究センター |
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8: 地下水を含む健全な水循環 |
質の高い社会を構築するための健全な水循環の維持・回復 |
【国内機関】熊本大学、内閣官房水循環政策本部事務局、国土交通省、熊本市 |
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9:ユースによるリーダーシップ、イノベーション |
アジア太平洋地域における水の安全保障とレジリエンスのための有意義な若者の参画 -持続可能な成果のための世代間パートナーシップの構築 |
【国内機関】 ユース 水フォーラム九州、九州大学 |
表4: 各分科会の概要、及び、主要提言
水と災害 |
気候変動によって激化する水災害は、人工的な環境や自然環境に直接的に影響を及ぼす。その影響は、水・食料・エネルギーとのネクサス、人々の生活の質(クオリティオブライフ)にも伝播し、貧困、健康、教育、労働とも密接に関係する。また、一度、社会がそのような状況に陥ると、ジェンダー、平等、平和などの分野でさらなる問題が発生する。我々世界は、新型コロナウイルスによるパンデミックを通じ、普段は社会・経済・環境システムに内包されている複雑で連鎖的・システム的なリスクが、空間や時間の境界を越えて突然出現し、人類を脅かすことを既に学んでいる。 気候変動への適応は、環境、経済、社会、文化的・歴史的価値に対する気候変動の影響を科学的に評価することによって可能となる。この科学的な評価は、気候モデルの出力を水理・水文シミュレーション、予測・管理システムのインプットとして使用することによって可能となる。これらによる包括的な評価に基づいて、適応策が選択・実行されるべきである。このように講じられた施策はモニタリングされ、評価され、その結果は次の意思決定プロセスに反映される必要がある。すべての関係者当事者は、ジェンダー平等かつ社会的包摂のある方法でエンドトゥエンドの解決策を提供するため、科学技術、ガバナンス、ファイナンスの三つの分野で協調的・協力的行動を取ることが必要である。 |
水と食料 |
アジアにおける農業(灌漑)の観点から、生産的あるいは効率的で包括的な水利用を増やすための適切な方法と技術を共有し、SDG6.4を促進する方法を議論。また、SDG7.2「小規模水力発電や太陽光発電を活用した再生可能エネルギーへの転換」、SDG13.1「気候関連災害や自然災害に対する回復力・適応力の強化」やSDG2.4「適切な農業水管理」といった他のSDGsとの有効な結びつきを明らかにした。 アジア太平洋地域において、農業での持続可能な水利用を推進するには、活用しやすい先端科学技術の開発、地域別の水循環を考慮した政策及び経済システムの導入、そして農業部門への投資が重要であると提言。 |
水供給 |
SDG6.1を達成させるには、単にアクセスを拡大するだけでなく、水供給の強靭性、包括性、持続可能性を確保することが重要である。本分科会では、都市の水供給に焦点を当て、SDG6.1の達成に必要な原則を理解し、今後の都市水道の具体的な行動とグッドプラクティスについて「科学技術」、「ガバナンス」、「ファイナンス」の観点から議論。 様々な投資モデルを発展させ、持続可能な水道事業体を育成し、ガバナンスの改善を促し、持続可能な料金も出ルを推進することにより、貧しいコミュニティやインフォーマル居住地の住民を含むすべての人々に、安価な水を供給することが必要であることを提言。 |
水と衛生/汚水管理 |
アジア太平洋地域における汚水管理の加速と改善の緊急かつ不可欠な問題について議論。 汚水管理は、公衆衛生を確保し、水環境を改善することにより、都市部の魅力を高めるための潜在的なイニシアチブの1つ。 管理の強化を推進するためには、組織化されたガバナンスだけでなく、官民パートナーシップやアジア太平洋地域のさまざまな分野での科学技術革新の適用による投資も必要であることを提言。 |
水源から海までの水と環境 |
本分科会は、互いに教訓を共有し、新型コロナウィルス感染症からの復興にながる経済発展と環境保全の組合せ、官民の連携、地域、国内、国際の各レベルでの利害関係者での協力、継続的かつ広範な生物調査を含む水環境管理のシステム、及びグリーンインフラの整備について議論を深め、合理的かつ実行可能な手法を見出し、長期にわたる活動に取り組むために必要なことを提言。 水源から海まで流域全体での水循環は、自然環境にも人間社会にも欠くことができないものである。自然由来の対策としてのグリーンインフラは、伝統技術と近代工学をバランスよく組合せた先端技術である。地域材料と在来植物を活用することで、社会の強靱性を高め、地域経済を刺激することができる。コミュニティベースの対策として、若年者から高齢者までさまざまな世代が積極的に協働することにより、持続性を向上させることができる。とりわけ、森林、河川、湖沼及び海洋のために活動する若い世代は感謝の気持ちを育み、それを次の世代へ引き継ぐことができる。水源から海までの流域をとおして水、経済、そして共感の好循環を一体的にマネジメントすることにより質の高い社会を形成できる。 |
水と平和・文化 |
水を共有する人々の交流の歴史や、人と水との関係から教訓を学ぶことを目的に開催された。 このセッションでは、HELPのハン・スンス議長が、2022年3月に開催された第9回世界水フォーラムで公表した「変化する気候化における渇水リスク管理」に関するHELP原則を紹介した。 GWPのバムジー議長は、越境協力に対してもっと野心的な目標が必要であることを強調した。UNESCO東アジア局のカーン所長は、水と文化に関する地域市民意識と教育を促進する、アジアにおけるユネスコのジオパークの役割を述べた スロバキアの元大統領で、Danilo Türk 水と平和に関する世界ハイレベルパネル議長は、水が紛争の火種になるのは、水の代わりになるものは水しかないからであり、国際協力のための強力な概念的枠組みの必要性を強調した。また、「Principle to Foster Peace, Before, During, and After Water^related Harzard」の概要を紹介した。ウズベキスタン水資源省第一副大臣 アジムジョン・ナザロフ氏は、水灌漑技術、農民への水使用料、近隣諸国との多国間および二国間協議について言及し、水リスクと損失を管理するために必要な行動について述べた。Olga Algayerova国連欧州経済委員会事務局長兼国連事務次長は、「越境水路及び国際湖水の保護及び利用に関する条約」にアジア太平洋地域からの参加を呼びかけた。また、国連2023年水会議が越境協力のための分岐点となるよう、関係者全員に要求した。 続いて、早稲田大学、神戸大学,一橋大学、東京海洋科学大学、東京大学、オーストラリア国立大学、オランダ・エラスムス大学の学生が、フランス、タイ、シンガポール、中国、日本、インドネシア、オランダなど世界各地の歴史的な水インフラや水管理施設を紹介した「水遺産」574件のマッピングを発表した。 パネルディスカッションでは、アメリカ、インドネシア、オランダ、GWPが古代から今日までの効果的な水共有・協力に関する事例を紹介し、教訓を発信した。 本セッションの最後には、「Principle to Foster Peace, Before, During, and After Water^related Harzard」が採択された。 |
水と貧困・ジェンダー |
社会経済的に脆弱な人々の生活改善に貢献する水災害リスク軽減やジェンダー改善、水衛生についてのアジア太平洋地域での先端的事例を紹介するとともに、持続的な開発に向けた実践的な政策策定や介入について議論。特に、科学的根拠に基づき貧困と長期的な水災害リスクの軽減を両立する気候適応策や、ジェンダー平等を推進するための4つの行動領域(組織のリーダーシップとコミットメント、変化を促すジェンダー視点の包含と分析、意思決定とパートナーシップにおける意味ある包括的参加、資源への平等なアクセスとコントロール)について議論を深めた。 SDGを達成するには、ジェンダー平等と社会的包摂の観点を水ガバナンスに取り入れていく必要がある。ジェンダーと貧困の問題を、より衡平で包括的な政策に情報を与え、資金を提供する科学的研究に統合することによってのみ、我々はSDGsをはじめとする重要な目標の達成に近づくことができる。 |
地下水を含む健全な水循環 |
本分科会では、地下水を含む健全な水循環の維持または回復に向けた、ガバナンス、ファイナンス、科学技術に関する知見を共有し、今後、アジア・太平洋地域各国が取り組むべき具体的な行動の提言を行った。 我々が利用できる水資源は、絶えず「循環する水」の一部であり、この水循環を健全に保つことが持続可能性、包摂性、強靱性を有する「質の高い社会」を築く上で極めて重要。ステークホルダー間で「健全な水循環の維持または回復」という目標を共有し、水循環に関係するエリア単位でこれら個別の施策を相互に連携・調整しながら進めていくことが重要であり、それは「質の高いインフラ」の整備の基本的な目標である。 |
ユース |
有意義な若者の参画は、若者のためにではなく、若者を「自分たちが直面する課題の専門家」として重視し、それは開発において意義深い貢献をもたらすことになる。若者と大人は、共有価値のパートナーシップとして協力することが大切であり,それによって、専門知識や経験を共有し、両者双方の価値を創り出し、共通の目標と共同の責任感や共有する意思決定を保持し、しっかりとした信頼・尊敬・互恵性の上にパートナーシップを構築することになるのである。 本分科会では、あらゆるレベルにおける有意義な世代間パートナーシップのあり方について洞察し、アジア太平洋地域における水の安全保障とレジリエンスのために、若者の意義ある参画をどのように強化していくことができるかを議論した。 アジア太平洋地域における包括的で持続可能かつ強靭な社会を推進する上で、若者は重要な役割を担う。政策決定者達は、形式としてだけ若者を含めるということから脱却し、アジア太平洋地域における水の安全保障を推進するための貴重なパートナーとして見なすべきである。そのためには、若者を対等なパートナーとして協働できるよう、若者があらゆる段階の意思決定プロセスに参加し、若者もイニシアティブを主導できるよう、安全で働きやすい場を構築していく必要がある。 |
表5: 特別セッション 主催機関、及び、セッション概要
ショーケース: (主催機関) ICHARM |
この特別セッションでは、ガバナンスを整えるために、都市~国の4つのスケール事例から、科学技術を活用したモデルイニシアティブと教訓を共有した。 水は人々の生存とウェルビーイングにとって非常に重要である。水は、大気-海洋-陸域に関する自然科学と、農業、森林、健康、エネルギー、経済、居住を含む社会経済便益の両分野に関わる課題である。アジア、太平洋において水課題は深刻である。洪水や渇水の予測および警戒システムの整備が急務である。生存のために水資源開発が、人々の健康のために良好な水質が必須である。気候変動はアジア、太平洋において脅威となっています。新型コロナウイルスによるパンデミックが、空間や時間の境界を越えて人類を脅かしている。 現場のステークホルダー(関係当事者)は、科学技術コミュニティと分野を超えた対話を通して水がもたらす利益とリスクの理解を共有し、地域や伝統的な知識に加え、地球規模のモニタリングや予測を公共財として最大限に活用して、統合的なシナリオを開発し、対策を実行すべきである。また、議論の進行役を務め、問題を解決の方向に導き、現場で専門的な助言を行う触媒的な人材の育成も重要です。様々な空間スケール、主題や機能の面で、科学、政策、運用の3者の協力が不可欠である。 |
島嶼国: (主催機関) 水と災害ハイレベルパネル(HELP)事務局 |
小島嶼国は、その地理的・気候的特徴から、多くの固有を課題を抱えているが、アジア・太平洋水サミットの対象国49カ国のうちの四分の一を太平洋の小島嶼国が占めており、アジア・太平洋地域の水問題を議論するうえで、小島嶼国固有の問題に焦点を当てた議論は非常に重要である。 |
表6: 統合セッション共催機関
科学技術 |
[国内機関] 水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM) |
ガバナンス |
[国内機関] 国土交通省水管理・国土保全局 水資源部 |
ファイナンス |
[国内機関] 国土交通省水管理・国土保全局河川計画課国際室 |
総括統合セッション |
[国内機関] 水と災害ハイレベルパネル(HELP)事務局 |
表7: 統合セッションの概要・主要提言
科学技術 |
観測システムや数値モデルの大幅な改良に伴い、データや情報は爆発的に増大し、流通速度も速くなった。その一方、多様性や正確さに関する問題にも対処する必要が生じている。このような課題を克服するためには、急成長する情報科学技術の流れの中で、水と気候分野の連携の下、水に関する諸問題を解釈し、解決していくような科学技術の分野間協働を確立することが必要である。また、ステークホルダーと科学者の双方向のコミュニケーションを促進し、データや情報を感じ、受け取り、共有し、経験や知識、アイデアを交換し、協力を促すことによって社会的利益を生み出すために、科学と社会の間の協働を促進することが必要である。また、これらのことは、人材育成にも反映されるべきものである。 本セッションでは、各分科会とショーケースからの提言を総括し、主要メッセージとして、次の3つを発信した。 ・観測、モデリング、データ統合に焦点を当てたオープンサイエンス政策を加速し、水循環に関する知の統合を促進する。 ・「ファシリテーター」の育成、すなわち、現場で幅広い科学的・伝統的な知見を用いて専門的アドバイスを提供し、問題解決に導く人材を育成する。 ・エンドツーエンドのアプローチをとりながら領域や異なるレベルのセクター間を超えて協働する。 |
ガバナンス |
アジア水開発展望2020やSDGを含む鍵となる水ガバナンスの経過を参照するとともに、9つの分科会の見解を統合し、IWRMの4つの視点(環境整備、制度と参加、管理ツール、資金調達)から水ガバナンスの改善について議論を深め、2030年までにアジア太平洋の水の安全保障を達成するための機関、世代を跨ぐ関係者との最適な協調に向け、水ガバナンスを前進させるための提言の取りまとめをリードしつつ、水ガバナンスにおいて直面する課題を議論した。 このセッションの成果は、9つの分科会から引き出されたアジア太平洋地域において水ガバナンスを前進させるための8つのハイレベルな提言と19の具体的行動の策定である。 1. 政策的な一貫性を増進する。「水源から海まで」及び統合水資源管理の取り組みや健全な水循環の回復、SDGsの達成を考慮に入れつつ、地域、越境、国レベルにおいて、水関連セクターに跨る重要な法令、規則、政策、基準を制定又は完全実施することを展開又は加速させる。 2. 国境を越えた協調を強めるために、地域の法的枠組、国境を跨ぐ情報共有を強化する。包摂的な地域対話を開催する。不足がある場合に国家間の既存の国境を跨ぐ水管理の取決めをアップグレードする。 3. 一貫性や包摂性(特に若者、女性、弱者に注目した)があり、ジェンダー・トランスフォーマティブ(ジェンダー不平等とその根本原因となるジェンダー規範、ジェンダー間の不平等な力関係、差別的な意識や法律、制度、社会構造を変革し、特に女の子と女性の状況改善だけでなく、彼女たちの社会的地位の向上や意思決定過程への参画を目指すもの)な制度的取り決めを行い、全ての水セクターと管轄区域を跨ぐ協調を確立する。全ての水セクターの能力開発を確保する。 4. 水関連インフラと技術への投資及び管理は、適切な科学技術に基づき、環境に優しく、全ての関係者に裨益するよう、多目的に設計されることを確実にする(日本の主導による質の高いインフラ。) 5. データを集約して保持すること、データを取り込んで情報共有する強固で透明性があり相互運用性のあるプラットフォームとメカニズムを促進すること、全てのレベルで複数の関係者を巻き込み、根拠に基づく計画づくり、意思決定、継続監視のプロセスに参加させることにより、能力とデータの格差に取り組む。SDGsやAPWS宣言を含む水の安全に貢献している関係者をマッピング化し、現場での行動の整合を図るメカニズムを開発する(東南アジアで試行する統合水セキュリティオープンプログラム。) 6. 全ての関係者がアクセス可能で、気候変動の影響を強く受けるアジア太平洋地域の水文気象学的かつ地理的な特徴を描写する水リスクを特定する助けとなるツールを開発し、促進する。それらをアジアの水ガバナンスを前進させるための水管理意思決定に活用する。 7. 全てのレベルにおいて水の安全保障の行動を支援するために費用分担と資源の共有化を促進し、地域の協調を進め、世代を跨ぐ全ての人へ裨益させる。 8. 異なるセクターやレベルからの複数の資金源を支持する革新的な資金枠組を通じて資金へのアクセスを開放し、効率的で効果的な実施を実現する公益への道を切り開くために、高潔さと透明性を保つ慣行を水道企業を含むあらゆる水機関にわたって主流化する。 |
ファイナンス |
ファイナンスに関する各分科会からの提言やアジア太平洋地域における水資源管理、水サービスの提供、防災対策に関する好事例を統合し、どのようにしてi)政府部門、ii)民間部門を最大化できるか、また、どのようにi)とii)の効率的に組み合わせることができるかについて議論し、以下の提言をまとめた。 ・水分野への投資をもっと促進すべき。特に、気候変動の影響に緊急に取り組むために、誰もが気候変動のことを話しているが。もう一歩踏み込んで、災害が起こる前に、積極的に水災害リスク軽減のための投資を行うことが、アジア太平洋地域のSDGs達成と国家発展の基礎であることを認識し、特に河口や浸水域に位置するメガシティのほとんどは、そのような投資を行う必要がある。各国は、仙台防災枠組で合意した第一義的な責任を果たすため、包括的な災害リスク軽減投資を早急に計画し、実施する必要がある。 ・早期警戒・予測システム、空間計画、水関連災害リスク軽減など、異なる目的のために複数の技術を組み合わせた対策を実施し、さらに、気候変動に起因する財政リスクがタスクフォースによって認識され、気候関連財務情報開示や国際財務報告基準に記載されているように、科学的根拠に基づく具体的なリスクやニーズを認識すること。 ・水災害に対する積極的な防災投資が不可欠であり、防災投資がSDGsの基礎条件となり得る。私たちは、SDGsと切り離すことはできないため、SDGsの基礎条件を作っていかなければならない。 ・積極的な投資を行うためには、各国の政治的リーダーシップが不可欠。政治的なリーダーシップがなければ、予算はもちろんのこと、規制や法律、人材育成など、何一つ実現できない。すべてがそこにかかっている。 |
表8 シンポジウム一覧
日程 |
時間 |
プログラムタイトル |
主催者 |
4月23日(土) |
13:10-14:40 |
熊本の小学生から世界に発信! ~海洋ごみをゼロにするために~ |
海と日本プロジェクトin くまもと |
15:10-16:40 |
アジア・太平洋のなかでの九州 ―水でつながる人たちが語り合う水との持続可能な暮らし |
九州水フォーラム |
|
17:10-18:40 |
宇宙技術による水問題対策への貢献 |
宇宙航空研究開発機構(JAXA) |
|
4月24日(日) |
10:30-12:00 |
あなたにもできる流域治水フォーラムin くまもと ~激甚化する水災害に備えた「まちづくり・ひとづくり」~ |
国土交通省九州地方整備局熊本河川国道事務所 |
12:30-14:00 |
「水の国くまもと」シンポジウム ~熊本地域における地下水保全の取組み~ |
「水の国くまもと」シンポジウム実行委員会 |
|
14:30-18:00 |
水インフラに寄与する森林の役割について |
林野庁 |
4thAPWSその他参考資料
○第4回アジア・太平洋水サミット プログラムブック
https://www.waterforum.jp/pdf/pr/4APWS_ProgramBook_jp.pdf
○ 日本水道新聞社による第4回アジア・太平洋水サミット速報無料公開ページ、
https://suido-gesuido.co.jp/news/11、及び、
○ アースネゴシエーションブレティン/ENBによるサミットハイライトもご参照ください。(英語)
4月23日デイリーハイライト
https://enb.iisd.org/4th-asia-pacific-water-summit-23April2022
4月24日デイリーハイライト
https://enb.iisd.org/4th-asia-pacific-water-summit-24April2022
サマリー
https://enb.iisd.org/sites/default/files/2022-04/4th_asia_pacific_water_summit_0.pdf