事後調査報告概要
ダルビッシュ有水基金では、ダルビッシュ有投手始め皆様からご支援をいただき、これまで15件のプロジェクトを実施しています。今回、過去に実施した中から2つのプロジェクト地の現在の状況を確認するため、実施団体の協力を得て事後調査を実施しました。第11号(タイ、2017年)、第12号(パキスタン、2018年)のそれぞれのプロジェクト地では、支援によって建設された設備が現在も問題なく使用され、利用者によって適切に維持管理が行われていることが確認できました。プロジェクト実施地の安全な水と衛生の状況の改善に加え、子供たちの学習環境も改善されていました。受益者からはダルビッシュ有水基金の支援に対し、改めて感謝の言葉がありました。
プロジェクト事後調査の目的
以下2点について確認するためにプロジェクト事後調査を実施しました。
- プロジェクトによって建設された設備と、受益者の現在の水と衛生の状況
- プロジェクトによる受益者の変化
第11号プロジェクト(タイ)事後調査
プロジェクト概要 プロジェクト詳細はこちら
プロジェクト名 : サハミット・ワッティヤ学校での安定した生活・農業用水と飲み水の供給プロジェクト
実施団体 : Sustainable Community Foundation
実施期間 : 2017年4月~12月
実施場所 : タイ チェンマイ県 サハミット・ワッティヤ学校
受益者数 : 650人(生徒600人、教師50人)
1.プロジェクト実施前の主な課題
- この学校には生徒と教師が利用できる安定した水源がなかった。
- 飲み水として使用している井戸の水は、利用できる量が減少し、また生活用水として使用している河川の水位も季節変動が大きい。
2.主なプロジェクト実施事項
- 貯水タンク15基の設置、送水管、屋根の雨水集水管の設置
- 維持管理トレーニング
- 生徒や住民に対するワークショップの開催
3.プロジェクト成果
- 生徒600人と教師50人が、安定して利用できる水源を得た。
- 井戸水の汲み上げにかかっていた電動ポンプの電気代が減った。
- 生徒や教師、地域住民が建設に必要な技術的知識や協力し合うことの大切さを学んだ。
事後調査結果
事後調査実施団体 Sustainable Community Foundation
事後調査訪問日 2022年10月14日
1.プロジェクト当時の水課題の改善状況
- プロジェクトで設置された、貯水タンク、屋根集水管等の設備の状態はいずれも良好であり、計画どおりに機能している。
- 年間を通して十分な量の水が供給されている。
- プロジェクト時に維持管理トレーニングを受けた教員が、現在も維持管理を担っており、複数の男子生徒がこの教員と一緒に自主的に維持管理作業を行っている。
2.プロジェクト実施後の現地での変化
- 最大の課題であった生徒の水アクセスは改善され、衛生状況を保つのに十分な水を得られている。
- 生徒たちは、汚染された水が原因と考えられる皮膚疾患を患っていたが、今では衛生状況も改善され皮膚疾患も見られなくなった。
3.設備利用者の声
―設備の維持管理をする上で問題は生じていない。
40代教員、設備維持管理担当者
―新たな井戸を掘ったが、水がきれいではなく濁っているため、水処理の技術を習得したい。
―きれいで十分な量の水を利用できるのは非常に素晴らしい。友人ともきれいな水を使用できることについてよく話している。
10代女子生徒
事後調査訪問時の様子
第12号プロジェクト(パキスタン)事後調査
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プロジェクト名 :ドーセラ村で洪水被害に遭った村人との、安全な飲み水供給プロジェクト
実施団体 :Shama Social Village Development Organization
実施期間 :2018年6月~11月
実施場所 :パキスタン、ハイバル・パフトゥンハー州、ドーセラ村
受益者数 :ドーセラ村に住む52世帯(現在は55世帯)
1.プロジェクト実施前の主な課題
- 川や運河、その支流が村から3kmほど離れたところを流れており、この地域は水関連の災害に対して脆弱である。
- 2010年7月~9月の洪水では、多くの人命のみならず井戸や手押しポンプ等の飲み水水源が奪われた。プロジェクト当時には、地域の半数以上の人々が安全な飲み水や生活用水を確保できていなかった。
2.主なプロジェクト実施事項
- 手押しポンプ式井戸10基の設置
- 住民啓発プログラムの実施(2回)及び維持管理トレーニング
3.プロジェクト成果
- 10基の手押しポンプ式井戸が設置され、52世帯が安全で清潔な飲み水に簡単にアクセスできるようになった。
- 住民100人が、衛生習慣に関する知識を学んだ。
- 住民10人が、手押しポンプの維持管理についてトレーニングを受けた。
事後調査結果
事後調査報告者 :Shama Social Village Development Organization
事後調査訪問日 :2022年11月3,4日
1.プロジェクト当時の水課題の改善状況
- プロジェクト時に設置した10基のポンプは問題なく稼働し、対象地域の住民に対して安全な水を十分な量供給している。
- 住民から毎月集金している基金を用いて、これまでに3基のポンプを修繕しており、現在は問題なく稼働している。
- 住民で構成されるプロジェクト委員会が、現在も必要に応じて住民にポンプの利用方法を指導している。
2.プロジェクト実施後の現地での変化
- プロジェクト前と比較して、この村の水関連疾病の罹患数は大きく削減された。
- 村外の非常に多くの住民が、このプロジェクトの受益者から基本衛生習慣を学び取り入れており、こういった人々の感染症への罹患状況は改善された。
- プロジェクト後には、水の無駄遣いを避ける、使用後の水を1カ所にためておかない、長時間容器で水を保存する場合は蓋をする等の行動の変化が見られた。
3.設備利用者の声
ープロジェクト委員会では、週ごと、月ごとの業務表があり、各委員が時間をやりくりしお互いに協力して維持管理作業を行っている。業務はすべてうまくいっている。
40代男性、プロジェクト委員
ー以前は、夜は水を手に入れることができなかったが、プロジェクト完了後には遠くまで水を汲みに行く必要がなくなり、夜間であっても容易に安全な水を手に入れることができるようになった。
30代女性
ー特に子供たちの間で汚い水が原因である疾病が減った。
ー友人とこのプロジェクトについてよく話しており、彼らに井戸の水を分けることもある。
10代、男子生徒
ープロジェクト後は遠くまで水を汲みに行く必要がなくなって学校に間に合うようになり、勉強時間を無駄にすることがなくなった。
ーきれいな水を利用できるようになったことで、兄弟たちも汚い水が原因で病院に行くことはなくなり、医療費がかからなくなった。
事後調査訪問時の様子
まとめ
プロジェクトに対する事後調査では、2件とも当基金の支援で建設された設備が現在でも問題なく使用され、利用者や住民によって維持管理が適切に行われていることが確認できました。このプロジェクト支援により、プロジェクト実施地の安全な水と衛生の状況の改善と子供たちの学習環境の改善だけではなく、周辺の住民にも良い影響が見られ、プロジェクトの影響が想定より大きいことが確認できました。また、ダルビッシュ有水基金の支援に対し、学校や保護者、生徒から改めて感謝の言葉がありました。
ダルビッシュ有投手をはじめ、当基金へご寄付いただいた皆さま、現地パートナー団体、対象地域の住民等、多くの皆さまに改めて御礼申し上げます。
(報告者:マネージャー 田畑美世)