ストックホルム世界水週間2023が、8月20~24日にかけて、ストックホルムウォーターフロントコングレスセンターとオンラインのハイブリッド形式で開催されました。
今年のテーマは、「変化の種:水に対して賢明な社会を構築するための革新的解決策(Seeds of Change: Innovative Solutions for a Water-Wise World.)」でした。
同会議事務局であるストックホルム国際水機関(SIWI)によると、今年の同会議には、オンサイト・オンラインと合わせて、192カ国から15000人の参加がありました。そのうち、同会議初参加は73%で、41%がユースプロフェッショナルであったとのことです。
日本水フォーラム・アジア・太平洋水フォーラム(APWF)事務局は、SIWIと協定のもと、ストックホルム世界水週間におけるアジア太平洋地域のコーディネーターを務めました。 そして、今年のテーマに即し、次の5つのセッションを下記の多様な機関と共催しました。 下記に、その開催結果概要を紹介します。
なお、この11月より、同会議のセッションは、どなたでもYoutubeを通じて無料で拝見できるようになりました。ご覧頂けますと幸いです。
1.Enhancing Local Resilience through Water-Culture-Innovation Nexus
「水・文化・イノベーションネクサスを通じた地域レジリエンスの向上」
- 8月21日 日本時間 18:00 ~ 19:30 (ストックホルム時間 11:00 am ~12:30pm)
- 共催機関: アジア・太平洋水フォーラム(APWF)、ユネスコマルチセクター東アジア局(UNESCO multisectoral Regional Office for East Asia)、アジア開発銀行(ADB)、世界水パートナーシップ中央アジア(GWP CACENA)、オーストラリア グリフィィス大学 国際水センター(International WaterCentre: IWC)
本セッションでは、各スピーカーが、インド、インドネシア、カンボジア、スリランカ、ソロモン諸島、中国、パキスタン、フィリピン、マレーシア、アラル海、琉球諸島の事例を共有しながら、地域固有の水文化・慣習や有形・無形文化遺産に関する知見をよりよく理解し、その要素を早期警報システムや他のハード・ソフト対策に取り入れ、最新の技術的進歩と地域社会の集合的な知恵の両方を活用した総合的なアプローチを構築し、各流域ならではの河川空間を構築することができれば、最終的には災害リスク軽減の取り組みと流域地域活性化の全体的な効果を高めることができることについて、議論を行いました。
本セッションでは、バスキ・ハディムリヨノ インドネシア政府公共事業・国民住宅大臣が、開催挨拶をして下さりました。バスキ大臣は、ご自身が参加をされた第4回アジア太平洋水サミットでは、レジリエントで持続可能かつ包括的な社会の実現の必要性が首脳級、及び、専門家・実務者間で強調されたにもかかわらず、現在の既存のアプローチが国際的な水関連目標の達成にリスクをもたらしていることを指摘されました。
とりわけ、世界の水関連災害の3分の2はアジア・太平洋地域で発生しており、効果的な水資源管理のために先住民の知識や文化遺産を活用していくことの必要性を強調しました。また、バスキ大臣は、水、文化、イノベーションの結びつきは、食料、エネルギー、都市開発、地域平和にプラスの影響を与えるために不可欠であることから、国、地域、文化の垣根を越えた学際的な意思決定プロセスの重要性や、水資源管理における戦略評価、及び、その改善の必要性を強調し、分野横断的な協力を呼びかけました。そして、今後は、水文化とイノベーションの結びつき(ネクサス)を吟味し、地域のレジリエンスの強化、及び、その実現のためのガイドラインやロードマップ作りが必要であることを強調しました。
バスキ大臣は挨拶の最後に、2024年5月にインドネシア・バリ島で開催予定の第10回世界水フォーラムは、バリのヒンドゥー教に基づくユニークな水管理システムを紹介する機会として注目されていることを共有しました。第10回世界水フォーラムは、水と災害の問題に対する認識を高めることを目的としており、多くの方々に、世界水フォーラムの多種多様な議論プロセスへの積極的な参加を呼びかけました。
琉球諸島の事例は、総合地球環境学研究所・琉球大学理学部 新城竜一教授が、健全な水循環を実現するための取り組みについて陸と海の水循環を介したつながりや、暮らしの中で育まれてきた生物と文化のつながりや多様性、多様な資源のガバナンスの規範・組織・制度の変遷や重層性の解明、及び、得られた成果のつながりを可視化し、陸と海をつなぐ水循環を軸としたマルチリソースの順応的ガバナンスの強化を目指す、リンケージプロジェクトを紹介しました。新城教授は、琉球諸島が有する世界文化遺産、サンゴ礁生態系の価値、農業における地下ダムの役割について言及し、地域コミュニティに対して、地下水の流れや土地利用の変遷なとを伝えるツール(P+MM)の活用や、地域の水循環、及び、持続可能な水資源管理を効果的に推進していくための地域住民の意識を高めるボードゲームの開発、ワークショップの実施を通じた科学的知見の共有、住民参加型による水資源管理の改善事例を共有しました。新城教授は、科学データを地域コミュニティに対して、わかりやすく可視化し、地域社会と効果的に関わりながら持続可能な水資源管理を推進していくアプローチは、地元の人々が自分たちの将来や水資源について考えるのに役立つことを強調しました。
スピーカー間、及び、聴講者とのパネルディスカッションでは、我々はどうやって、統合水資源管理に各地域ならではの水文化に関する情報を統合できるか、水文化が変容していく中で、どうやって実践的なアプローチを見出していくか、水資源管理と災害リスク管理の文脈で、グローバルサイエンスとローカルサイエンス、そしてローカルな知恵を結びつけることのできるファシリテーターの必要性にも焦点を当てました。
各スピーカーによる発表やパネルディスカッションの結果、水に関連する災害に対する世界的な科学的知見、イノベーション、技術的解決策に、アジア・太平洋地域の伝統的な知識体系を尊重した学際的なアプローチを構築し、水アジア・太平洋の各地域的な解決策に、有形・無形的側面を統合していく必要性、及び、その実現のために、都市、各流域コミュニティ、各離島が直面するような特定の課題に対処していくためのガイドラインを作成することの必要性を強調しました。
セッション動画
(報告者:チーフマネージャー 朝山由美子)