UNFCCC COP28公式サイドイベント 「気候変動レジリエンスを高めるネクサスアプローチ」の開催

 日本水フォーラムは、12月11日に、アラブ首長国連邦・ドバイで開催された、気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)における公式サイドイベント「気候変動レジリエンスを高めるネクサスアプローチ」を開催しました。(共催:ストックホルム国際水研究所(SIWI)、ラムサール条約事務局)
 気候変動への適応に関する世界全体の目標(Global Goal on Adaptation)のなかで、水、生態系、食料、エネルギーシステムの相互依存に着目することの重要性が認識されています。にもかかわらず、2023年6月に開催された気候変動枠組み条約ボン会合において、気候変動に対する野心的な公約に水の役割が欠け、政策の一貫性も欠如していることが明らかとなりました。 水、エネルギー、食料,生態系(WEFE)ネクサスを成功させるには、気候変動による影響を照らして、セクター間の相乗効果とトレードオフを特定し、セクター間の水平的統合を図ることに加え、政策と実践のギャップを埋めるために、政府のレベルを超えた多様な利害関係者間の垂直的統合に向けた取り組みも必要です。

 このサイドイベントでは、WEFE関連セクター間の相乗効果とマルチレベルのガバナンスを促進する政治的リーダーシップを育成することを目的に開催しました。科学的根拠に基づく政策立案、政策の一貫性を高め、政策と実践の両方から気候への適応と緩和策に貢献するために、実務者と政策サイドの両方の取り組みを紹介しつつ、WEFEネクサスと行動実施に関する議論を行いました。様々なレベル、開発途上国、先進国それぞれの違いを認識しつつ、各状況下、地域の実情に沿い、どのような取り組みが必要かを提案し合いました。

 本サイドイベントは3部構成で議論を展開しました。

 第1部は、議論設定を兼ねた基調講演です。筆者は、日本の事例として、流域治水を軸に、気候変動適応法のもとでの取り組みや、リスク管理型の水資源政策の深化・加速化について、気候変動や災害、社会情勢の変化等を見据えた流域のあらゆる関係者による水マネジメントについて紹介しつつ、気候レジリエンス向上に向けた科学的根拠に基づく政策形成、ネクサスと 政策一貫性の促進に向けて必要なことを提案しました。
 第1部では、ほかに、ドイツ連邦経済協力開発省(BMZ)の世界保健・機会均等・デジタル技術・食料安全保障担当局長の Ariane Hildebrandt氏が、ドイツの取り組みに関するスピーチを行いました。Hildebrandt氏は、技術的視点と政治的視点のギャップを埋め、「ネクサス思考からネクサス行動へ」の必要性を強調し、ネクサス・アプローチを推進するには、政治的な意志、制度設計の強化が不可欠であると強調しました。 また、ラムサール条約事務局長 Dr. Musonda Mumba博士が、ビデオで、 「湿地と地域プログラムを取り入れた実践」について紹介し、気候変動対応における湿地の重要性を強調し、ガバナンスレベルでの協力を呼びかけました。

 第2部では、 次の政府職員が自国の取り組みを紹介し、”実践を政策につなげる”と題したパネルディスカッションを行いました。
・インド政府農村開発省長官 Ms. Shri Shailesh Kumar Singh,
・レソト政府統合流域管理プロジェクト事例 副コーディネーター Mr. Matsalo Migwl
・ヨルダン政府 Mr.Alexander Jokischネクサス利害関係者への水問題の伝達-ヨルダンの地下水過剰取水の事例

 上記スピーカーは皆、ネクサスアプローチの推進には、セクター間の制度設計調整に加え、コミュニティーの関与が欠かせないことを強調しました。また、異なるセクター間の協力と理解の強化を目指したコミュニケーションツールがセクター間協力を後押しすることを共有しました。

 第3部のパネルディスカッション「政策から実践へ」”Policy into Practice”では、上記のスピーカー、IPBES生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価共同議長で、Rutgers 大学のPamela McElwee博士、及び、会場の聴講者とで議論を行いました。
 パネルディスカッションでは、次の議論を行いました。
・政策から実践へどうやってリープフロッグを進めるか、
・異なる価値観がある中でどうやってコンセンサスを見出していくか、
・ジェンダー的視点をどう政策や施策に盛り込んでいくか、
・文化横断的なことにどう対処していくか、
・1カ国の政策ネクサスを超えて、国を跨いだ地理的なネクサスにどう対処していくか

 参加者は、自国で科学技術等をうまく活用した取り組み等を紹介しつつ議論を行い、ネクサス施行からネクサス行動へのシフトを通じて、実装してくことの必要性、及び次のことを強調しました。
・ネクサスの視点が伴った様々な形の評価、多基準評価、バックキャスティング分析を政策形成に活かすことは、良いガバナンスを促進するだけでなく、科学的根拠に基づき、政策の一貫性が保たれた政策立案を促進し、セクター間の相乗効果とトレードオフを特定し、セクター間協力による便益を増大させることにも寄与する。
・ネクサスそのものが気候変動に対するレジリエンスを高めるための解決策である一方で、気候変動による影響がある中で、ネクサス・ガバナンスの概念を実施することは、様々な課題に直面する。政策実施を成功させるためには、複数レベルのガバナンス、それらの相互関連性、責任の架け橋を認識する必要がある。

セッション録画
https://www.youtube.com/watch?v=O4Kns3dc5SY

(報告者:チーフ・マネージャー 朝山由美子)

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