第10回世界水フォーラム テーマ別プロセス4(協力と水外交)

T4C3セッション「OECD水ガバナンス指針:地域レベルでの実施のためのハンドブック」での登壇(5月23日)

本セッションでは、OECD水ガバナンスイニシアティブ(WGI*)がWWF10で初公表した「OECD水ガバナンス指針:地域レベルでの実施のためのハンドブック」に関する議論を行った。本ハンドブックは、サブナショナル・レベル(自治体、地域、流域など)での実装を目的に、12の指針ごとに52の実践事例を共有している。本セッションでは、国・地方政府、国際機関、NGO、研究機関、企業の代表者が一堂に会し、各指針の地方、流域レベルでの先進事例、及び、困難に直面した事例から得られた教訓を共有し、地方・流域レベルで政策を立案・実施のために重要なことを議論した。 

本セッションでは、OECDの起業・中小企業・地域・都市局(CFE)で水ガバナンス局、兼ブルー循環経済ユニット長のOriana Romano氏がモデレーターを務めた。そして、OECD WGIの議長で、フランスのエコロジー計画事務局国際部の特別アドバイザーのBarbara Pompili氏(元フランス・エコロジカル・トランジション大臣)が、キーノートスピーカーとして、「OECD水ガバナンス指針:地域レベルでの実施のためのハンドブック」を紹介した。続いて、パネルディスカッションが展開された。

日本水フォーラムのチーフマネージャーの朝山は、水資源管理や水供給・衛生において、国や流域自治体は重要な役割を果たしているが、彼らだけですべてを行うことはできない。地方自治体や流域協議会は、ステークホルダーの支援を受けて、どのように水ガバナンスを改善できるかという質問に対して、日本の自治体から得られた教訓を発信した。第1に、国は水管理のための指針を示し、測定可能な目標を備えた明確な国の政策と枠組みを提示する必要があること、第2に、様々な利害関係者間の協力を促進するために、社会経済的・環境的便益を明確にしつつ、流域全体の水管理計画と調整が必要であること、第3に、民間企業による水管理に資する国際認証の取得が自治体や流域の水ガバナンスのさらなる改善にも寄与すること(ハンドブック事例51)、第4に、科学的知見と地域ならではの知見を持つ「ファシリテーター」を育成し、水課題解決に取り組む上での権限を与え、科学・政策・地域社会の接点を強化する必要があること等を発信した。

OECD水ガバナンスイニシアティブ(WGI)運営委員会メンバーのPierre-Alain Roche氏は、グッド・ガバナンスは理論的なものではなく、実践的なものである。これまでの水ガバナンス指針の実施から学んだ教訓は、意見の共有が進歩への唯一の道である。例えば、当局や著名な利害関係者が透明性を確保するために、情報やデータを共有しようとする行為は、水利用者間で紛争が起きている状況下では、そう簡単には行われない。彼らはすべての情報が悪用される可能性があることを知っている。しかし、前進し、信頼と信用を得るためには、それ以外に方法はない。 水利権を持ち、自分たちの文化的なやり方で管理する排他的権利が存在する中で、水資源管理課題を改善するには、このような環境下で、どのような施策があるか、事例を通じた経験を共有しながら、模索していく必要があると言及した。

ウォーター・ユース・ネットワーク(WYN)代表のSophie Erfurth 氏は、 ユースが参加するイベントの多くは、実際のところは包摂的ではなく、単なるチェックボックスとしてしか機能しない。地方レベルでの「水ガバナンス指針」実施の試みは、改革に向けた示唆を提示する。私たちの制度を野心的でありながら現実的に改善するには、国民の期待や競合する利害を駆り立てる過去の遺産に起因する課題を理解すること、意味のある変化を促すためには、セクターを超えたコミュニケーションとその理解が必要と述べた。

フランスの民間企業Aqua Fed事務局長のNeil Dhot氏は、水管理分野が、食料、エネルギー、環境など、北でも南でも懸念されている他の政策分野の調整要因になるには様々な課題を要す。 我々は、自治体や流域レベルで水プロジェクトの実施任務を担う複数機関に内在する困難を目の当たりにしている。分権化と中央集権化の間で、バランスを取りながら水分野の事業運営を行っていく必要があると強調した。

トルコ水協会(SUEN)専門家のBurcu Çalli氏は、トルコの上下水道行政のパフォーマンス向上に向け、2017年から導入しているベンチマーク評価事例を紹介した。当初の目的は、自主的なデータ共有、知識交換、ベストプラクティスの普及のための全国的なプラットフォームを確立することであり、最終的には部門のパフォーマンス向上に努めている。ベンチマーキングは、上下水道事業者のパフォーマンスを評価・改善するための強力な意思決定手段として機能し、優れた水ガバナンスを支える強力なツールであることが実証された。調査の結果や成果は、WASAのいくつかで長期マスタープランやパフォーマンス改善調査において重要なインプットとして役立っている。パフォーマンス指標を地域の状況に合わせてカスタマイズすることで、異なる国や地域で適用することもできる。SUENは、このベンチマーク評価を他の国や地方に経験を共有し、協力する用意があると述べた。

ウォーター・インテグリティ・ネットワーク局長のBarbara Schreiner氏は、地方レベルは「市民」にサービスを提供する重要な役割を担っており、かつ、サービスを提供する上で説明名責任(アカウンタビリティ)を示すことが求められている。サービス提供や水関連の気候変動の影響に対する適応のための資金動員が限られている中で、十分にサービスを受けていない人々のために、限られた資源を有効に活用するには、財務管理とサービス提供における透明性と誠実な慣行がますます重要となっている。本ハンドブックではその事例が紹介されていることを紹介した。

参考文書

OECD水ガバナンス12の指針

写真:テーマ別プロセス4C3セッションの様子

(報告者: 日本水フォーラム チーフマネージャー 朝山由美子)

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