ストックホルム世界水週間2024セッション開催結果報告「レジリエンスの強化:アジア太平洋地域のマルチハザード警報システムのギャップを埋める」

開催日時:8月26日  ストックホルム時間 9:00-10:30(日本時間16:00-17:30)
共催機関:APWF事務局・国際水管理研究所 (IWMI)・国連ハビタット(UN-HABITAT)・アジア開発銀行(ADB)

セッションの概要

アジア太平洋地域の災害リスクに関する知識、モニタリング、準備、コミュニケーションにおける既存のギャップは、洪水や渇水対策に対する脆弱性を高めている。とりわけ、予測に関すること以上に、コミュニケーションや対応能力が課題となっている。 アジア・太平洋地域のコミュニティを災害リスクの増大から守るためには、地域主導のマルチハザード早期警報システムが必要不可欠である。しかし、その実現には、地域の文化を尊重すること、政治家の支持を得ること、厳密な評価システムを構築することが求められる。

本セッションでは、早期警報システムのギャップを埋めるための、実践的な取り組みに焦点を当て、考慮すべき重要な点を探るとともに、集団行動、能力開発、技術投資のそれぞれが果たす重要な役割について議論した。パネルディスカッションでは、事例を掘り下げ、実在の検討事項を探る。先進的手法事例が他のコミュニティの置かれた状況において機能していくためには、どういった施策が必要か、科学技術、政策・制度設計、キャパシティビルディング、多様な利害関係者間が協働していくためのメカニズム、ファイナンスの視点から議論した。また、マルチハザード警報システムの規模拡大に向けて解決すべき課題も明確にした。

セッション開催結果詳細

本セッションでは、WMOアジア・南西太平洋地域事務所のベン・チャーチル所長が「アジア太平洋地域における万人のための早期警報イニシアチブの進展:人命救助と強靭なコミュニティの構築」と題した基調講演をして頂いた。

世界人口の65%を占めるOECD諸国では、早期警報システムがカバーされているところは65%に及ぶのに対し、開発途上国や島嶼国では、その対象範囲はそれよりもはるかに低くなっている。「Early Warnings for All(すべての人に早期警報を)」イニシアチブは、2027年までにマルチハザードに対する早期警報システムによってすべての人が恩恵を受けられるようにすることで、このギャップを埋めることを目指している。この取り組みには、戦略的パートナーシップ、新たな技術、及び、世界中の脆弱なコミュニティのニーズを満たすための財源の確保が含まれている。目標達成は、国連、国際金融機関、NGO、市民社会、研究機関、民間セクターなど、さまざまな利害関係者の強力な国家的リーダーシップと積極的な関与にかかっている。WMOは、取り組みの重複を防ぎ、効果を最大化するための取り組みを行っており、アジア太平洋地域の早期警報システムを強化するためのパートナーシップの構築に重点的に取り組んでいる。

WMO・及び、そのパートナー機関は、2024年4月に「アジア地域の気候報告書(State of the Climate in Asia 2023)を発表した。2023年、アジアでは1,779件の水文気象災害が発生し、そのうち80%が洪水や暴風雨に関連しており、2,000人以上が死亡し、900万人以上が影響を受けた。また、国連事務総長とWMO事務局長は、2024年8月27日に「南西太平洋気候報告書2023」に関する報告書を発表した。この報告書の重要なポイントとして、災害のわずか24時間前に警報を発することで、被害を30%軽減し、人命と数十億ドルの損失を防ぐことができることである。例えば、早期警報が発令されたサイクロン「モカ」は、50年前の同等の規模ののサイクロンに比べて死者数が大幅に減少した。

アジアおよび世界では、水文学的および気候学的課題に対処するために、数多くの取り組みが進行中である。これには、HydroSOS、大規模な洪水ガイダンスシステム、悪天候予報プログラム、沿岸浸水予測イニシアチブなどがあり、これらはすべて地域の災害対策とレジリエンスの強化を目的としている。

発表の最後に、チャーチル所長は、「すべての人に早期警報を」イニシアチブとさまざまな資金調達メカニズムを組み合わせることで、とりわけ、脆弱なコミュニティにおける能力開発とレジリエンスの大幅に向上につながる。さらに、早期警報は、気候変動対策に関するSDG13だけでなく、他の17のSDGsすべてに貢献するものである。国立気象水文サービスは、さまざまなセクターでレジリエンスを強化し、持続可能性を促進するという、重要な横断的役割を果たしている。今後の成功を確実なものとするためには、世界全体での共同支援が不可欠だと強調した。

チャーチル所長の基調講演の後、4名の現地スピーカーが、アジア太平洋地域のマルチハザード警報システムのギャップを埋めるための事例を紹介した。

Dr. Avi Sarkar(国連ハビタット(UN-HABITAT)、東南アジア地域アドバイザー兼ラオス人民民主共和国事務所長)は、「データから行動へ:ラオスのコミュニティの声を災害対策に活かす」と題したプレゼンテーションを行った。ラオスでは気候変動の影響が非常に深刻であり、頻発する気候関連災害によって大きな経済的損失が発生している。2018年には、ラオスは3億6,000万ドルの経済的損失を被り、洪水による損害は同国の年間GDPの3.6%に達すると予測されている。また、過去12年間で39件もの大規模な気候災害が発生している。北部と中央部では降水量が減少する一方、南部では降雨量が増加し、雨季の開始時期が変わると見込まれている。

こうした課題に対処するため、国連ハビタットは適応基金(Adaptation Fund)と連携し、ラオス全18州、148地区、8499村を網羅する詳細なハザードマップを作成した。この作業には、調査結果の確認のために広範なコミュニティ協議が行われ、集落の46%が毎年少なくとも1つの気候災害に直面し、人口の半数以上が影響を受けていることが明らかになった。

特に重要な課題として浮き彫りになったのは、共通のアラートプロトコルの欠如と、コミュニティフィードバックメカニズムが不十分である点である。これに対処するため、情報の提供と受信を強化する新しい早期警報システム(EWS)アプリが開発されている。また、国連ハビタットの取り組みには、避難所や水衛生施設の整備、デジタルリテラシー向上のためのコミュニティや政策立案者、政府関係者を対象とした能力開発プログラムが含まれている。

このプロジェクトの効果を完全に評価するには時間がかかるものの、すでにコミュニティとの信頼関係が構築され、地元の問題への積極的な関与やデジタルリテラシーの向上につながっていると示唆されている。現在、5つの州と6つの地区を対象としたパイロットフェーズが進行中であり、肯定的な結果に基づいて規模を拡大する予定である。また、この分野で活動する20の機関が連携して取り組むことは、リソースの効率的な活用と効果の最大化において重要である。

IWMIの災害リスク管理および気候レジリエンス担当主任研究員であるギリラジ・アマルナート博士は、「スリランカの早期警報イニシアチブを強化するためのAWAREプラットフォーム」と題したプレゼンテーションを行った。

早期警報システムの世界的な進捗にもかかわらず、特にマルチハザード早期警報システムの開発と災害の連鎖リスクの定量化において、大きな課題が残っている。アマルナ―ト博士は、早期行動における早期警報システムの8つの現在のギャップと課題について強調した。

  1. 早期警報システムのカバー範囲とアクセスの限定:
  2. 科学者のリスク認識と一般市民の認識
  3. リソースの制約: 資金調達とインフラについて
  4. ガバナンスと調整: 断片化されたシステムと政治的要因
  5. 文化と言語に関する考慮事項
  6. 技術的課題: EWSの技術への依存とスマートフォン、インターネットへのアクセス
  7. 対応能力: 対応計画とリソースの調整が不足していると、作業の遅延や非効率につながる。

アマルナ―ト博士は、とりわけ、ガバナンスと調整がネックであることを言及した。早期警報システムを効果的なガバナンスとコミュニティの行動計画と統合することが重要で、効果的な災害リスク・ガバナンスには、戦略的に各機関の調整が不可欠であると強調した。

続いて、動画を交え、スリランカで適用されている早期警報、早期行動、早期投資(AWARE)プラットフォームについて紹介した。このプラットフォームは、水文気象局と地方自治体を結びつけることで、災害への備えと対応を支援するものであると説明した。

(動画)スリランカにおける地すべり・洪水リスク軽減のための予見行動シミュレーション訓練 |IWMI(スリランカのAWAREプログラム)

スリランカの例は、地元主導の適応策の影響について示している。早期警報システムだけでは不十分で、運河の整備をはじめ、地域インフラを整備することで、洪水被害を大幅に減少することが可能となる。

アマルナ―ト博士は、最後に、レジリエンスを高めるためには、参加型ガバナンス、地域のインフラ改善、早期警報システムとコミュニティ主導の行動の統合に焦点を当て、地域の適応努力を伸ばす包括的なアプローチが必要であると強調した。

国土交通省河川計画課国際室 小浪尊宏室長は、 日本の事例を交えて「洪水早期警報における利害関係者間のギャップについてどう対処するか」について発表を行った。

日本は、ハード・ソフト対策の双方で多額の投資を行い、洪水早期警報システムの改善に積極的に取り組んできた。日本は、39台のXバンドMPレーダーを含む先進的な気象・雨量レーダーを配備し、全国に14,000以上の水位計を設置することで、正確な洪水予測・監視を行っている。こうした技術は、地上のデータを収集し、市民が理解しやすい洪水マップを作成することで補完されている。

一方で、市民の意識向上の面では課題が残っている。これをふまえ、日本は、一人暮らしの親族に対し、居住地の水位や浸水リスクを周知する「逃げなきゃコール」を導入し、親族(人対人)の避難呼びかけや住民の自発的な避難行動を支援する取り組みを行っている。

国際的には、ユネスコが主導する「国際洪水イニシアティブ(IFI)」をはじめ、アジア太平洋地域におけるプロジェクトを通じて、幅広く協力関係にある。ICHARMが事務局を務めるIFIは、世界、特にアジア諸国において「水のレジリエンスと災害に関するプラットフォーム」の設立を推進しており、IFIのイニシアティブを通じた支援には、コミュニティのレジリエンスの構築、洪水リスクマップの作成、水文リスク管理のための国際基準の策定などが含まれている。

洪水管理における日本のリーダーシップは、2023年の「国連水会議」を含む国際会議への貢献を通じてさらに強化されており、「行動ワークフロー」の提示を通じて気候関連リスクに対処するための世界的なガイドラインの策定に貢献した。

さらに、日本は、ISO内外の取り組みを分析することにより、既存の標準化および潜在的な標準化トピックを特定するために、国際ワークショップ協定(IWA)を提案することも可能である。

小浪室長は、日本は、包括的な早期警報システムとインフラ整備を通じて、人命を救い、経済的損害を軽減するための協力関係の構築を促進しながら、その専門的知識を世界に共有し続けていることを強調した。

ADBのランス・ゴア首席水資源専門家は、「世界の屋根が溶けている」と題して、ヒマラヤ地域の氷河融解への対応について紹介した。彼は、ADBが下流の河川流域に重大なリスクをもたらす氷河の融解という緊急的な課題に対処していることを強調した。ヒマラヤ地域の氷河融解に関する課題は、早期警報システムに関連しており、アジア全域の何百万人もの人々に影響を及ぼし、農業、エネルギー、都市開発に深刻な影響を及ぼしている。

第10回世界水フォーラムの「バンドン・スピリット水サミット」でADBの浅川総裁のスピーチにおいても、この課題について焦点を当てており、ICIMOD(国際総合山岳開発センター)などのパートナーと協力して、この課題を優先的に取り上げている。

ADBは、以下の4つの主要な戦略を通じて、開発途上加盟国を支援するために積極的に資源を動員している。

  1. マルチハザードリスク評価の強化
  2. 国境を越えた早期警報システムの強化
  3. 気候変動に対するレジリエンスのための革新的な資金調達
  4. 地域協力と知識共有の深化

これらの取り組みは、約20億人が住み、世界の食料生産と生産に不可欠な下流の河川流域における水不足の長期的な影響を軽減することを目的としている。

パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、ストックホルム環境研究所(SEI)アジアのタナポン・ピマン主任研究員がモデレーターを務め、モデレーターや聴講者からの質問には8名のパネリストが回答した。

まず、タナポン・ピマン博士は、IWMIのインド・バングラデッシュ局の代表であるアロク・シッカ博士に、政策立案者と地元農家の間で干ばつ監視データと早期警報システムを使用することの利点について質問した。

シッカ博士は、南アジアでの私たちの取り組みは、インド農業研究評議会のようなパートナーと協力して、南アジアの干ばつ監視システムの開発に焦点を当てていると回答した。この包括的なシステムは、早期警報、干ばつ監視、緊急時対応計画を統合し、干ばつへの積極的な対応を保証するものである。 私たちのアプローチの重要な側面は、干ばつ管理における時間的優位性の重要性を理解することである。10日から15日の範囲での時間的優位性の検討が必要である。複数のデータソースを使用して早期警報を生成し、それらを水文システムとリンクして効果的な干ばつ監視を実現する。早期警報システムはタイムリーな行動に結びついており、干ばつ緊急時対応計画の実施を促進するものである。

彼は また、早期警報が具体的な行動につながるように村落レベルでの地域の適応について強調した。 これにより 、干ばつによる不測の事態の対策が現場レベルで効果的に実施され、大規模な被害のリスクが軽減されている。最後に、シッカ博士は、早期警報システムは非常に重要であるが、残存するリスク管理のためには、緊急時対応計画が依然として不可欠であることを強調した。

次に、ラオス気象水文局(DMH)のViengxai Manivong副局長に、「ラオスの現在のマルチハザード早期警報システムの主な強みと重大なギャップは何か?DMHは、これらのギャップにどのように対処しているか、という質問をした。

Manivong副局長は、ラオスのマルチハザード早期警報システムの長所と短所を交えつつ、質問に答えた。 第1に、災害管理法(2019年)、早期警報標準運用手順書(2017年)、災害リスク軽減に関する国家戦略(2022-2030年)などの政策枠組みを策定し、効果的な災害管理と早期警報に必要な法的根拠を提供したことを紹介した。また、国際機関と協力して、観測ネットワークと予測システムの大幅な技術的アップグレードを行っていることを紹介した。早期警報ステーションを設立するプロジェクトが進行中であり、アプリを含むツールは、天気予報や早期警報情報を提供することで農業セクターを支援している。さらに、村での拡声器の使用、ラジオ放送、ソーシャルメディアプラットフォーム(WhatsApp、Facebook)の通じた伝達等、地域に根ざした取り組みにより、早期警報メッセージがコミュニティに確実に届くようにしている。伝統的なコミュニケーション方法と現代的なコミュニケーション方法の統合は、コミュニティの災害準備体制を強化している。

一方で、これらの進歩にもかかわらず、次の重大なギャップも存在することを強調した。

  • 不十分な観測システム:データ収集のための適切なインフラが不足している。メンテナンスが不十分な場合、予測の精度にも影響を及ぼしている。
  • 限られた熟練人材: DMHには、予測および警報システムを効果的に管理するための専門知識を備えた十分な訓練を受けた人員が不足している。
  • 影響予測の能力開発とデータ・アクセス改善、: 影響予測の能力開発がまだ実施されておらず、さらなる技術トレーニング、リソースが必要である。
  • 意見収集メカニズム:エンドユーザーから意見を収集するシステムが不足している。そのため、早期警報の有効性を評価し、必要な改善を行うセクターの能力が限定されている。

Manivong副局長は、これらのギャップに対処するために、ラオスは、中国の支援を受けて、早期警報システムを強化するための共通アラートプロトコールなどの新しいプロトコルとプラットフォームを模索していることを共有した。しかし、フィードバックメカニズムは依然として細心の注意が必要であると強調した。

ラオスの国連常駐調整官事務所のシャイリ・マトゥール事務局長は、「ラオスのEW4Allロードマップは、女性、障がい者、少数民族を含む脆弱なグループへの被害を最小限に抑えるために、マルチハザードの早期警報メッセージを確実に受け取ることが出来るようにするため、どのようにしているか。」という質問に答えた。

マトゥール事務局長は、EW4Allロードマップの包括的でマルチ利害関係者のアプローチを強調し、これがラオスの脆弱なグループがタイムリーでアクセス可能な早期警報メッセージを確実に受け取ることにつながったことを言及した。

2024年8月5日にラオス気象水文局が承認したラオスの民族の多様性を認識したロードマップは、ラオス女性連合、ラオス青年連合、障害者団体との協議など、多様な団体の協力を得て、遠隔地の民族コミュニティに早期警報メッセージを多言語で発信できる。 ロードマップには、音声技術などの技術が組み込まれており、早期警報メッセージが障がい者にも確実に届くようにしていることを共有した。

World Youth Parliament for Waterの代表であり、バングラデシュのエコ・プレクティフィックの創設者であるプラント・ポール氏が、バングラデシュでの経験を共有した。

907の河川があるバングラデシュでは、8月23日現在、約400万人が深刻な大規模な洪水に見舞われ、7万5,000人が一時的に避難を余儀なくされている。5月に開催された第10回世界水フォーラムで、彼のチームは、早期警報システムへの若者の関与が不可欠であることを強調した。バングラデシュのベンガル湾周辺における先住民族の文化的視点と伝統的知識は、災害の理解と予測に重要な役割を果たすものである。先住民族の知識は、気象パターンや災害予測に関する貴重な洞察を提供することにつながっている。

進捗があるにもかかわらず、認識には大きなギャップがある。統計によると、2015年から2022年の間に早期警報を認識していたのは人口の28%に過ぎず、普及と教育のニーズが改善されるべきであることを示している。早期警報の知識を地域社会に提供することで、あらゆる損失と貧困度合いを削減し、地域の専門知識を活用して効果的な解決策を生み出すことができる。これらの要素を統合することで、早期警報システムの有効性を高め、災害に対するレジリエンスを向上させることができる。

会場からの質問

  1. 気象・水文セクターと農業セクターの協力は、農業における対応や適応、レジリエンスの取り組みが多く求められる中で、どのように進められるのか。また、これらの協力関係をどうやって築き、効果的に繋げているのか?
  2. すべての組織が同じ目標に向かって取り組むように調整手法を改善することについて、また、どのようにして取り組みの重複を防ぐことができるかについて、どのようにお考えか?

WMO(世界気象機関)のベン・チャーチル氏は、2つの質問が密接に関連しているため、同時に回答した。国の気象水文サービスと農業コミュニティとの関係は、特に地域レベルで非常に強固であり、農業国ではこうした関係が1世紀以上続いている。気象・水文サービスは、これらのコミュニティのニーズを理解し、それに応える必要がある。そのためには、重要な閾値を特定し、気候予測を共有し、短期的および長期的なガイダンスを提供するために、継続的な対話が不可欠である。

セクター間の調整は非常に重要であり、各機関の役割と行動を理解することで、誰もが効果的かつ補完的に協力できるようにする必要がある。この考えは「Early Warnings for All」のコンセプトと一致しており、例えばラオスの事例では、複数の利害関係者グループが関与し、何が必要かを幅広く理解している。これにより、個々のコミュニティや利害関係者は、意思決定に必要な関連情報にアクセスできる。

また、国連ハビタットのアヴィ・サカル博士が指摘するように、早期警報を広めるだけでは不十分であり、適切なタイミングで適切な行動を取ることが重要である。さらに、情報が効果的に活用されるためのフィードバックループが必要であり、これにより情報がどのように使用され、その有効性がどのように評価され、改善されるかが確認できる。ユーザーベースのアプローチは、情報の活用状況や有効性を評価し、継続的な改善サイクルを生み出すために不可欠である。

気象・水文サービスが農業セクターと緊密に連携している良い例として、メコン川流域が挙げられる。この地域では、長期間の干ばつの後にモンスーンの雨が続いている状況が見られる。ADBのランス・ゴア氏が述べたように、こうした気候変動に対応するには時間、技術、投資が必要である。これにより、気候変動によってもたらされる脅威と機会の両方に対応し、私たちがその変化に適応することが可能になる。

セッションのまとめ

タナポン・ピマン博士は、文化や地域の知見を活かして早期警報システムを設計することの重要性について、ここにいる全員が共有できたことを強調し、セッションを締めくくった。特に重要なメッセージの一つとして、世界全体の50%の人々が早期警報システムや予測に関する十分な情報を持ちえていないということである。この課題を解決するためには、各機関や組織間の連携強化をすることが不可欠である。ITにおいては、インフラやローカルシステムへの投資を行い、従来の方法と新しい技術をうまく組み合わせることが求められる。また、人々を中心に据えたアプローチも重要である。地域社会からのフィードバックを取り入れることで、早期警報システムの効果と効率をさらに向上させることができる。最終的には、生成された情報が実際の利用者にとって本当に役立つものであることを確認する必要があると強調した。

©水道新聞社

セッションプログラム

セッション概要紹介 

日本水フォーラム・APWF事務局/日本水フォーラム 朝山由美子チーフマネージャー

基調講演:「すべての人に早期警報を」イニシアティブ アジア・太平洋地域での進捗
世界気象機関アジア・南西太平洋局Ben Churchill ディレクター

議論導入プレゼンテーション 

  • 国連ハビタット:UBS東南アジア地域アドバイザ-/ラオス局長 Avi Sarkar博士
  • 国際水管理研究所(IWMI)Giriraj Amarnath 災害リスク管理と気候レジリエンスに関する主席研究員 Anticipatory Action Simulation Drill to mitigate landslides and flood risks in Sri Lanka | IWMI 
  • 国土交通省 河川計画課国際室 小浪尊宏室長
  • アジア開発銀行 Lance Gore主席水資源スペシャリスト

パネルディスカッション (聴講者との質疑応答を含む)
パネリスト

  • 世界気象機関アジア・南西太平洋局Ben Churchill ディレクター
  • IWMI インド・バングラデッシュ局代表 アロク・シッカ博士
  • 国土交通省 河川計画課国際室 小浪尊宏室長
  • アジア開発銀行 Lance Gore主席水資源スペシャリスト
  • ラオス気象水文局(DMH)のViengxai Manivong副局長
  • ラオスの国連常駐調整官事務所のシャイリ・マトゥール事務局長
  • World Youth Parliament for Waterの代表/バングラデシュのエコ・プレクティフィックの創設者 プラント・ポール

モデレーター

  • ストックホルム環境研究所アジア支部 Thanapon Piman上席研究フェロー
  • APWF事務局/日本水フォーラム 朝山由美子 


本セッションの動画は以下よりご確認いただけます。

(報告者 日本水フォーラム・APWF事務局チーフマネージャー:朝山由美子)

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