10月30日に韓国・ソウルで開催された、ユネスコ政府間水文学計画(IHP)(注1)第31回アジア太平洋地域運営委員会(RSC-AP)会合に招待をされ参加をした。第31回会合は、韓国環境省水資源政策局と韓国のユネスコ国内委員会(注2)が会合をホストし、ユネスコ日本信託基金(JFIT)の支援を受けて、RSC-APの事務局を務めるユネスコジャカルタと共催をした。 アジア・太平洋地域各国のユネスコ国内委員会、及び、ユネスコのカテゴリー2センター、ユネスコチェアをはじめとするユネスコ水ファミリー機関等が会合に参加をした。
第31回会合の目的は、主に、次の3つであった。
- アジア太平洋地域各国のユネスコ国内委員会、及び、ユネスコ水ファミリーが、ユネスコIHPの第9期戦略計画(IHP-IX)のもと、5つの優先分野、及び、分野横断テーマ(注3)に沿い、昨年開催された会合後の取り組みや成果を報告・評価し合い、進捗や影響を確認すること
- アジア・太平洋地域の今後の水課題を議論し、IHP-IXの重点分野で課題解決に対処するための効果的、かつ効率的な方法を議論し、共有し合うこと
- 前日(10月30日)に開催された IHP-IXに沿った「アジア太平洋地域の水関連災害への対応」に関するラウンドテーブルや 水文解析カタログ(CHA:注4)ワークショップ等を含め、アジア太平洋地域における水分野の科学者や専門家、政府機関実務者関等の間で特定議題を議論し合うことで、知識や経験の交換を促進すること。
第31回RSC-APの午前の部では、第1に、韓国環境省Kim Kue-bum水資源政策局長、ソウル市Dae Hee Ahn局長、ユネスコ東アジア局のシャバス・カーン局長、韓国のユネスコ国内委員会名誉議長のSoontak Lee氏からの挨拶があった。第2に、韓国のユネスコ国内委員会副議長のJoo-Heon Lee教授が、「ユネスコの水科学のフロンティアと韓国における科学を基盤とした水管理」と題したプレゼンテーションが行われた。
第4に、前日(10月30日)に韓国環境省水資源政策局とユネスコIHP韓国国内委員会が主催したIHP-IX円卓会議:「ユネスコIHP-IX戦略計画に沿ったアジア太平洋地域の水関連災害への取り組みの実施」に関する議論の結果をKwansue Jungユネスコ韓国国内委員会議長・第31回RSC-AP組織委員会議長が共有した。そして、5カ国の代表者が、IHP-IXの5つの優先分野ごとに「RSC-APからの行動の呼びかけ」を読み上げた。この行動の呼びかけは、2025年のユネスコIHP 50周年に向けて、気候と水に対するレジリエンスのあるアジアを目指した行動呼びかけとして発信される。
第31回RSC-AP午後の部から、ユネスコIHPアジア太平洋地域国内委員会各国からの報告、及び、ユネスコ水ファミリーから、昨年の会合以降のIHP-IXの優先分野に沿った活動報告が行われた。
ユネスコIHP日本国内委員会の取り組みは、 IHPアジア太平洋地域運営委員会事務局長で、日本ユネスコ国内委員会科学小委員会政府間水文学計画(IHP) 分科会調整委員を務める 京都大学防災研究所の佐山敬洋教授が紹介をした。
ユネスコ水ファミリーからの報告として、日本からは、ユネスコカテゴリー2センターのICHARMからは、岡田智幸上席研究員がICHARMの取り組みを報告した。また、京都大学 水・エネルギー・災害研究に関するユネスコチェア(WENDI)の取り組みを京都大学の佐山教授が報告した。
筆者は、本会合に、APWF代表として招待をされ、ユネスコ水ファミリーとして、IHP-IXの優先分野に沿ったAPWFの取り組みを紹介した。 筆者は、第3回アジア・太平洋水サミットの「ヤンゴン宣言」を受け、ユネスコジャカルタが「水循環管理」のテーマリーダーとして、APWFのネットワーク活動を協働してくださるようになった2019年のミャンマー会合より、毎年、現地もしくはオンラインでIHP-RSC会合に参加をしている。第31回会合での報告として、IHP-IX「優先分野4:地球変動の状況下における統合的水資源管理」、及び、「優先分野5:緩和・適応・レジリエンスのための科学に基づいた水ガバナンス」の側面から、まず、第10回世界水フォーラムアジア・太平洋地域プロセスの成果報告を行った。同プロセスには、昨年のRSC―AP後に、RSC-APのメンバーからのフィードバックやインプットを頂きながら、テーマ別議論の枠組みを設定し、アジア太平洋地域プロセスの準備を行ってきたことから、その最終成果報告を行った。また、この成果を受けて深化した議論を行った「ストックホルム世界水週間2024:アジア・太平洋地域フォーカスセッション」で議論したことのうち、IHP-IXに関連する事項の成果で今後3年間、APWFのネットワーク活動として重点的に取り組んでいく事項、及びそのアプローチを共有した。また、「優先分野1:科学的研究とイノベーション」に関連する事項として、「衛星データと降雨流出氾濫(RRI)モデルを活用した洪水リスクマップ」の取り組みを紹介した。
各国、及び、ユネスコ水ファミリーからの活動報告後には、IHPの50周年記念、及び、ユネスコの水科学分野の60周年記念に向けた「ユネスコ科学レポート」出版計画に関する情報提供と協議が行われた。
会合の最後に2025-2027期のRSC-APの議長の選出が行われた。 次期議長にユネスコIHPベトナム国内委員会議長でベトナム気象・水文学・気候変動研究所Vietnam Institute of Meteorology, Hydrology and Climate Change (IMHEN)所長を務める Pham Thi Thanh Nga博士が選出された。Pham Thi Thanh Nga博士はユネスコベトナム国内委員会で初めての女性議長であり、RSC-APにおいても初めての女性議長となる。
RSC-AP前日(10月30日)には、第7回水文解析カタログワークショップ(Catalogue of Hydrologic Analysis: CHA)も開催された。CHAは、IHP RSC-APの共同事業として、ユネスコ日本信託基金(J-FIT)の支援を受けて実施されてきており、これまでに3巻が出版されている(注4)。RSC-AP事務局のユネスコジャカルタの職員の支援をつけつつ、埼玉大学の小林健一郎IHP日本国内分科会調査委員がCHAの編集を務めてきてきた。この度のテーマ―は渇水で、小林教授のモデレーターのもと、オーストラリア、日本、韓国、インドネシア、マレーシアの事例が紹介された。日本の対策については、国土交通省水資源部・水資源計画課の田中補佐が発表を行った。
(注1)政府間水文学計画(IHP)とは、国際協力による水(淡水)資源の最適な管理のための科学的基盤の提供を目的として、1975年に開始されて、2019年より政府間プログラムとなり、国際水文学計画から政府間水文学計画に改称された。国際協力を結集して、水に関する知識を改善し、技術革新の実現を目指す取り組みや、水の安全保障を実現するための科学と政策の橋渡しの強化、水資源の管理とガバナンスを強化するための教育と能力開発を目指す取り組み等を実施している。8年ごとに中期目標を策定し、活動計画を立案・実施している。
(注2) 韓国のユネスコ国内委員会は、2023年に、NGOとして組織を構成し、事業に取り組んでいる。
(注3)UNESCO IHP-IX戦略計画(2022-2029年)
テーマ: 「変化する環境における水の安全保障のための科学」
5つの優先分野
- 優先分野1:科学的研究とイノベーション
- 優先分野2:持続可能性を含む第4次産業革命における水教育
- 優先分野3:データ知識のギャップの解消
- 優先分野4:地球変動の状況下における統合的水資源管理
- 優先分野5:緩和・適応・レジリエンスのための科学に基づいた水ガバナンス
横断的なテーマ
- 水文システム、河川、気候リスクと水・食料・エネルギーの繋がり
- 生態水文学と水質
- 地下水と人々の居住
(注4) 水文解析カタログ(CHA):ユネスコ日本信託基金(JFIT)の支援を受けて、これまで、第1巻:洪水ハザードマップ、第2巻:ダム管理、第3巻:地下水管理が発刊されている。
(報告者:朝山由美子 チーフ・マネージャー)