11月19日に、「世界トイレの日」の設立、及び、世界各国、とりわけ途上国におけるトイレの普及に尽力したジャック・シム氏を交えたAPWFウェビナーを開催した。ウェビナーでは、彼の基調講演に加え、ADB, Water.org, リクシル Satoからの専門・実務家を交えたパネルディスカッションを行い、提言を発信した。パネルディスカッションモデレーターは、日本サニテーションコンソーシアムのPierre Flamand氏に務めて頂いた。
下記に、ジャック・シム氏の基調講演内容、及び、パネルディスカッション議論のサマリーを紹介する。
ジャック・シム氏の基調講演
今年の「世界トイレの日」のテーマ「Toilets: A Place for Peace」は、社会の進歩、生活の質、尊厳を促進する衛生の重要な役割を強調している。そして、衛生のような放置されてきた問題に取り組むことの重要性を強調している。
ジャック・シム氏は、2001年にインドを初訪問した際、公衆衛生の課題が文化的に常態化している現状を目の当たりにした。世界人口の40%が適切な衛生環境にアクセスできない中、人々の命を脅かす問題への意識を高めるべく、「世界トイレ機構(WTO)」を設立し、11月19日を「世界トイレの日」と宣言。衛生問題へのタブーを破るため、ユーモアや創造的なアプローチを活用し、世界でトイレの普及・啓蒙活動に努めてきた。
24年間の主な成果
- 現在では25億人が適切な衛生設備を利用できるようになった。
- 市場を活用した解決策の推進
- トイレをステータスシンボルとして捉えた普及モデルを開発。
- 商業的パートナーシップを活用し、持続可能な取り組みを拡大。
- 「世界トイレの日」は国連公式行事に昇格。「世界トイレの日」は、毎年30億人の人々にリーチしている。
- 「世界トイレサミット」は、韓国、中国、インド、インドネシア、ブラジル、ナイジェリアなど世界各地で19回開催された。 –
- クリントン元大統領やビル・ゲイツ、アクシャイ・クマール、マット・デイモン、アミターブ・バッチャン等、著名人や各国政府との連携により衛生改革を推進。
- カンボジアではゴシッパー(村のインフルエンサー)を活用し、トイレ普及を成功。
- インドでは、スワッチ・バーラト・ミッションを通じて、1億1,000万基のトイレが建設された。
- ブラジルでは新法の成立で民間投資を促進し、140億ドルの資金が調達された。
- 中国の観光地トイレは清潔になり、衛生問題へのタブーが解消されつつある。
- 「世界トイレカレッジ」を設立し、清掃員7万5,000人以上を訓練。
- 危険な汚泥作業を機械化し、安全な労働環境を実現。
今後の課題と方向性
- 持続可能な解決策
ODA削減や気候変動への注力が他のSDGs達成に影を落とす中、WASH(水・衛生・衛生環境)分野の優先順位を再び高める必要がある。 - 協力と革新
政治家や民間セクターと連携し、商業的解決策を強化。多様な利害関係者と協力して集団的利己主義を活用し、社会的利益を最大化。
24年間の活動を通じ、25億人が適切な衛生環境を享受し、持続可能な取り組みが多くの国で実現された。引き続き協力と革新を軸に、衛生を通じた生活の質の向上に貢献していく。
パネルディスカッション
パネリスト
- 世界トイレ機構(WTO)創設者・ディレクター ジャック・シム氏
- アジア開発銀行(ADB)水と都市開発セクターオフィース・戦略とパートナーシップチーム 水供給と衛生スペシャリストJitendra Kumar Singh氏
- Water.org シニアパートナーシップ・アカウントマネージャー Josephine Mendoza氏
- LIXIL「SATO」事業部イノベーションリーダー石山大吾氏
モデレーター: 日本サニテーションコンソーシアム 国際部門マネージャーPierre Flamand
モデレーターのPierre Flamand氏は、パネリストに、世界トイレの日の様なグローバルキャンペーンの影響、各機関の取り組み、安全なトイレの普及に関する進捗評価、課題、この分野への投資動向、インドや中国の政治リーダーが取り組んだ事業の影響力、技術的課題等、イノベーションとそのコスト等に関する質問を投げかけた。
パネルディスカッションのまとめ
世界的な取り組みと進展:
世界トイレの日は、衛生問題を世界的な議論の中心に押し上げる上で重要な役割を果たし、野外排泄の撲滅や安全なトイレへのアクセス向上を促進する取り組みを推進してきた。2013年に「世界トイレの日」が制定されて以来、セクターを超えた協力的な取り組みが、何百万人もの人々に恩恵をもたらし、パートナーシップや世界トイレ機構[i]やLIXIL・Sato[ii]、Water.org[iii]が取り組んでいる市場主導型の解決策の効果を示している。
新たなトレンド:
第2世代再発明トイレの様なオンサイト・サニテーション、ジェンダーに配慮したトイレ、糞便汚泥管理の機械化など、革新的なアプローチが注目を集めている。アジア開発銀行(ADB)などの金融機関は、衛生関連の要素を広範なインフラプロジェクトに統合し、効率性と持続可能性を高めるために最先端の技術を試験的に導入している。
今後の課題:
進展が見られる一方で、衛生サービスの経済的負担、支払い意思、下水道以外のシステムの安全な管理などが依然として障壁となっている。衛生設備・サービスへのアクセスを加速化するには、行動変容と政府の強力なりーダーシップが伴った規制・制度・金融的枠組みが不可欠である。民間セクターの専門知識を活用し、包摂的なアプローチを確保することが、今後の持続的な進展の鍵となる。
普遍的かつ平等な衛生アクセスを達成するためには、投資の拡大、イノベーションの促進、そして衛生ソリューションを携帯電話のような必需品として魅力的なものにすることが必要である。
包括的な解決策の必要性:
世界的な衛生危機に対処するには、トイレの建設・設置にとどまらず、衛生サービスチェーン全体を網羅する包括的なアプローチが求められる。財政的制約、公的サービスとしての下水処理が伴わない統合的な計画の欠如、持続不可能な寄付金依存型プロジェクトなどの課題は、革新的な資金調達メカニズム、能力構築、学校やコミュニティでの協力、利用者のオーナーシップの必要性を浮彫りにしている。インドのスワッチ・バーラト・ミッション(クリーン・インディア・ミッション)のような例は、大規模な取り組みの可能性と限界を示しており、衛生インフラに対する需要を喚起し、持続可能な維持管理の重要性を強調している。技術革新と、金融機関、中小企業、政府とのパートナーシップは、すべての人々に安全で包括的な衛生設備を提供する上で重要な役割を果たす。
第14回APWFウェビナーのまとめ
「世界トイレの日」に開催した第14回APWFウェビナー、世界が様々な課題に直面する中も、安全で安心できる衛生ソリューションの必要性を強調した。新しいタイプのトイレの革新[iv]や従来のシステムを再考する必要性を浮き彫りにした。衛生設備への投資、意識向上、リーダーへの説明責任を促すといった個人やコミュニティの行動が進展の鍵である。また、行動上の障壁に対処し、集団的責任感を育むことも重要である。効率的な知識共有と、衛生に対する政治的および経済的利益を訴えることが資金調達と行動を促進する原動力となる。協力的かつ前向きなアプローチが、持続可能な開発目標6の達成には不可欠である。
[ii] LIXIL SATO の取り組み
[iv] 例えば「第2世代再発明トイレ(G2RT: Generation II Reinvented Toilet)」、G2RTは、排泄物を直接その場で処理することができる機能を兼ね備えた独立したトイレシステム。排泄物の液体部分は浄化されて洗浄水として再利用され、固形汚物については高い熱と圧力を利用して有害な病原体を除去し、安全に堆肥としても利用可能な乾燥した固形物の状態に処理することが可能。この仕組みによって、水の汚染を防ぐことができ、汚染された水が媒介する病気の拡散防止に役立つ。 参考:リクシル2024年3月22日プレスリリース
(報告者:朝山由美子 チーフ・マネージャー)