ダルビッシュ有水基金・第17号プロジェクト完了報告

「雨水の力」ポーサット州ヴェアル・ヴェエン郡プロマオイ町ストゥントメイ村における貧困世帯への安全な飲料水アクセスの支援(カンボジア)

運用と維持管理実技

1. 事業地

カンボジア ポーサット州  ヴェアル・ヴェエン郡 プロマオイ町 ストゥントメイ村

カンボジア国ポーサット州
ポーサット州内ストゥンメイ村位置

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2. 受益者数

652人

(直接)雨水貯留システム受取者、研修受講者等: 244人(うち女性114人)

(間接)小学校水安全研修後の学習者や戸別訪問先等: 408人(うち女性178人)

3. 現地パートナー団体

RainWater Cambodia(RWC) www.rainwatercambodia-rwc.org

4. プロジェクト実施概要

 実施期間は2024年7月から2025年1月だった。プロジェクト開始から6カ月以内の当初計画通り、順調に完了した。RWCは、郡、町、村の担当者を含む地域関係者と密接に連携して、現地説明会、研修ワークショップ、雨水貯留システムの設置などを行った。RWCは本プロジェクト最大の成果を、施設の完成とストゥントメイ村担当者・学校職員・住民への安全な雨水貯留計画に関する知識移転としている。

【成果】
  • プロジェクト開始の現場説明会
  • 雨水貯留システム受取者(以下受取とする)世帯の候補訪問・選定・決定
  • 受取世帯との工事着手前協議
  • 資材調達と施工する地元石工を住民から選定
  • 「安全な雨水貯留計画」に関する研修ワークショップ
  • 雨水貯留収集システム20基設置と維持管理トレーニングワークショップ
  • 戸別訪問
  • 住民と学校への水安全計画啓発キャンペーン
  • プロジェクト引渡と認証式
【課題】
  • 大雨と長期間の悪天候:大雨が頻繁に発生した。RWCは雨天でも設置作業を進められるようにプラスチック等の仮設屋根で施工現場を覆って、石工の作業を続けるように技術指導を行った。
  • 村落水安全計画キャンペーンの参加人数:50名予定のところ25名参加。稲刈り等で多忙だったと想定。ドキュメンタリービデオのリンクを参加者、学校教師、村の担当者に広めさせることにした。

5. プロジェクト活動の内容

1) プロジェクト開始の現場説明会

 8月22日ストゥントメイ村小学校でプロジェクトの背景や予定などの情報を説明した。

RWC Executive Director Mr. Phen Keaによる現場説明プレゼンテーション

2) 受取世帯の確定

 2024年8月末から村の担当者の候補者リストをもとに戸別訪問調査を行って、受取20世帯102名(うち女性48名、子ども28名)を確定した。雨水貯留システム設置前に、受取世帯から現金100,000リエル(約USD25・3,750円、1システムあたりUSD200・30,000円の約12.5%)[1]の負担金を徴収した。

受取世帯候補への戸別訪問調査。左端に、既設の伝統的雨水貯留システムがある

[1] ストゥントメイ村の平均月収は、約USD150・22,500円と報告されている。

3) 雨水貯留システムの設置と維持管理研修

 地元で伝統的雨水貯留システムを設置してきた石工が、RWC研修受講後採用された。2024年9月19日に雨水貯留システムの設置を開始して、11月26日に終了した。9月27日と10月11日に施工の監視、監督、および立会検査を行い、受取世帯・村の担当者・町のCommune Councilor、RWCスタッフ・石工などが参加した。

雨水貯留システム設置状況
設置された3,000ℓ雨水貯留槽ジャンボジャー
ジャンボジャーのプロジェクト銘板
プロマオイ町Commune Councilor Mr. Chhem Nannによる施工現場視察

 2024年11月9日ストゥントメイ村内で受取世帯と村の担当者を対象に、水安全計画を含む雨水収集システムの運用と維持管理トレーニングを実施した。参加者は21名(うち女性15名)、内容は次の通り。

  • 運用と維持管理の実技、計画・運用の知識向上
  • 運用維持管理計画の作成
  • 設置終了後の雨水貯留タンク塩素消毒工程説明
維持管理のポイント説明
塩素消毒工程の説明

4) 安全な水の計画と雨水貯留研修

2024年9月12日、ストゥントメイ村小学校にて村の担当者と学校職員を対象に「安全な水の計画(Water Safety Plan 以下WSP)」と雨水貯留の研修を実施した。参加者は10名(うち女性2名、教職員3名)、研修内容は以下のWSP重点4項目習得だった:

  • 水源管理:水源リスクの評価、汚染やその他の危険要因を特定する方法
  • 水の収集:安全な水の収集、清潔な道具や方法による汚染防止の重要性
  • 水の貯留:水質を保持させる貯留方法、清潔で蓋のある容器の推奨
  • 飲料水の安全:最終的に飲料水として貯留水の安全性を確保する方法(煮沸やろ過など)の紹介
WSPと雨水貯留研修参加者
WSPグループワーク発表状況

5) 戸別訪問

 村の担当者は、WSP研修資料を活用して、30世帯(うち20は受益世帯)を訪問して、安全な水の計画WSPを行うための重要なメッセージ(①水源安全管理、②安全な貯留、③飲料水の安全)を共有した。また、ジャンボジャー雨水貯留システムは便利で安全・地元石工による設置可能等の利点を共有した。研修に参加した教職員は、学校教育の場で生徒に「安全な水の計画」を伝えた。

戸別訪問。研修を受けた村の担当者が、住民と「安全な水の計画」を共有した
ストゥントメイ村小学校朝礼。校長Mr. Ouk Sivより国歌斉唱時に、安全な水の計画の重要メッセージについてお話があった

6) 住民と学校への啓発キャンペーン
(1)村落水安全計画啓発集会2024年11月18日

 カンボジアの乾季は11月から5月まで続き、降雨はほとんどなく暑い。水の消費は雨季より多く、節水と利用者教育が継続的に必要である。RWCは水安全計画に基づき村落キャンペーンをストゥントメイ小学校で行い、受取世帯と村の担当者25名が参加した。キャンペーンでは、BBC系の制作会社による『Don’t wait for the rain』というビデオドキュメンタリーが上映された。リンク先はこちら:https://youtu.be/CORDA-kl98M?si=9SSpTXpvQ7xtsZcP

ビデオの主な内容は次の通り。

  • 沿岸地域の家庭、特に塩水汚染が影響を与えている社会経済と風景全般
  • 水供給へのアクセス状況、リスク、影響
  • RainWater Cambodiaによるリスク管理型雨水貯留システムのモデル
  • 雨水貯留システム受取世帯と設置計画
  • システム設置状況 – タンク二個使い雨水貯留システム
  • 乾季でやるべきこと
  • 運用と維持管理
  • 安全な集水システムの設置
  • このシステムを使用して影響を受けた世帯からの全般的な反響

 参加者はビデオドキュメンタリーの状況、問題、解決策、そして雨水収集システムの運用とメンテナンスについて、ストゥントメイ村の状況にもとても良く適用されると感じて非常に興味を示した。乾季の水源として雨水が良く、また雨水水源は飲料や料理用に特に好ましいと共有された。

(2)ストゥントメイ小学校水安全計画キャンペーン 2025年1月9日

 ストゥントメイ小学校での水安全計画キャンペーンに参加した学生は83名(うち女子40名)だった。教職員はRWCからトレーニング支援を受け、水安全計画の重要メッセージを欠席者含むすべてのクラスに広めた。キャンペーンの目的は学校で水安全計画の理解を把握させ、重要メッセージを共有して水への知識を深める行動を促進することだった。RWCプロジェクトアシスタントのMr. Nong Borothが、キャンペーンを進行した。キャンペーンの初めに学校の子どもたちたちの日常活動について、ブレインストーミング質問が行われた。洗顔、歯磨き、入浴、洗濯、通学、食事後の食器洗い、読書、宿題、水を飲む、手洗いの10項目のうち、7項目が水使用に関連していた。そこで、質疑を行い多くの子どもたちがうまく説明して簡単なご褒美を受け取った。続けて、コミュニティの水使用の問題、その対応策について質疑を行った。何人かの子どもたちは勇気を出して答え、本やペンを受け取った。ファシリテーターは水の安全計画を紹介し、主要項目として安全な水源、安全な貯留、安全な使用に焦点を当てた。これらの項目を、表流水、地下水、雨水の異なる水源に分けて説明した。「だれでも安全な水にアクセスできるようにするのが、大事です」と強調して、次の学校カリキュラムで繰り返し学ぶべき重要メッセージを伝えた。

  • 学校でも家庭でも清潔な水を使用する
  • 水安全計画の各項目から、重要メッセージを身につける
  • 乾季の飲料や料理には雨水を管理して使うような、効率的な水利用

 学生たちは積極的に質問に答え、今後の重要行動ポイントは明確になって学校のプログラムに取り込まれることになった。その後、学校教職員が水安全計画の重要メッセージを全クラス210名(うち女子75名)の学生に周知した。

ドキュメンタリービデオで沿岸地域での事例を視聴するストゥントメイ村(山間地)住民
水安全計画キャンペーンで小学生に質問をする様子

7) 塩素消毒と水質検査
(1)設置施設の塩素消毒

 2024年11月20日からプロジェクトチームと研修を受けた村の担当者によって、すべての受取世帯の雨水貯留システムへの塩素注入が開始された。

(2)試験所水質検査

 水質検査は塩素処理前と後の2段階に分けて実施された。試験所の指示するISO9308の基準と手順どおりに水のサンプルは採集され、プノンペンのACTA-BIO試験所に送られた。

【塩素消毒前】

 2024年11月20日、2つの受取世帯から水のサンプルを採取したところ大腸菌群を除き基準を満たした。大腸菌群はサンプル#01が1.2×10²MPN/100㎖、サンプル#02が2.4×10²MPN/100㎖となり基準値を超えていた。

【塩素消毒後】

 2024年12月16日に両世帯から水のサンプルを採取して大腸菌群を再検査したところ、検出されなかった。

水質検査用サンプル水採集(サンプル#1)
【塩素消毒後】サンプル♯01検査結果
8) プロジェクト竣工と引き渡し式
(1)引き渡し式

 引き渡し式は、2025年1月9日にストゥン・トゥメイ小学校で行われた。参加者は郡行政官、町Commune Councilor、村長、コミュニティ保護地域委員会、学校職員等のプロジェクト関係者等13名(うち女性4名)。式典ではプロジェクトの主な目的を、貧困層および最も疎外された世帯へ雨水貯留システムによって安全な水へのアクセスを増加させ、地元住民と学校の子どもたちにおける水の安全への意識を高めることとした。式典次第は(i) 実施状況報告(ii) 村への支援を継続するプロマオイ町や郡等地元当局へのプロジェクト成果品の委譲だった。RWCを代表してMr. Pheng Keaは、プロジェクト成功への支援、コミットメント、そして努力に感謝の意を表し、開会挨拶を行った。続いてProject OfficerのMr. Teng Phearomがプロジェクト実施報告を行った。当プロジェクトの強みとして以下の点が強調された。

  • 地元の当局の強い協力
  • 学校教職員と校長による場所提供と、水安全計画の重要メッセージを学校カリキュラムに組み込む強力支援。
  • 地元石工が、貧困や最も疎外された世帯救済に雨水貯留システム設置に取り組んだ。
  • クメール/イスラーム共同体では雨水が自分たちのアッラー(全てのムスリムが信じる真の神)のめぐみであると深く感謝して、敬っている。

 地元当局には、受取世帯による持続的な雨水貯留の運営維持管理の支援、効率的な水利用の保証、学校の子どもたちのための水安全計画、住民のための水安全計画が委譲された。受取世帯、郡・町・村当局、学校教職員はプロジェクトで開始された活動継続すると喜びのうちに合意した。すべての参加者は短期間で雨水貯留システムを設置して、村の担当者・学校教職員・学校の子供たちへの能力開発と知識移転などの成果をもたらした本プロジェクトを高く評価した。特に、この村のクメール・イスラム教徒のグループは、雨水利用に非常に感謝しており、飲料水や料理用に加えて礼拝にも使用できると喜んでいる。

 RWCは、ストゥントメイ村だけでなく、ヴェアル・ヴェエン郡内の他の多くの村々に対してさらなる支援を行うためのリソースを本当に求めており、ダルビッシュ選手・JWFにプロジェクトへのご支援を賜るよう、再びお会いできるように望んでいる。

(2)認証書

 引き渡し式でプロマオイ町Commune Councilorにプロジェクトチームから認証書が委譲された。書類引渡しにより公式に地元当局へ管理が移管され、フォローアップの支援が継続される。

引き渡し式記念写真
引き渡し式での実施報告

6.住民の声

 1) Mr. Sous Muser

73歳、農業、雨水貯留システム受益者

 最近プノンペンから移住してきたイスラーム教徒で、水源は雨水と水売りから購入する水を使っていた。このプロジェクト以前は、水が十分に確保されているかが最大の関心事だった。自宅に雨水貯留水槽が設置され、安全な水の計画の知識を得てからは、家族も自分自身も幸福になったと述べられた。

2) Mr. Thach Promthor 

72歳、農業、雨水貯留システム受益者

 このプロジェクト以前の水源は、村近くの小川から汲んだ水を配達するタンクローリーを頼りにしていた。写真は村の水の安全計画担当者Mr. Mao Theang(赤いシャツ人物)が訪問して、安全な水の計画メッセージを共有しているところ。Mr. Promthorは、もう水買いにお金を使わなくなって幸せだとのことだった。維持管理研修に参加して、雨水貯留システムによる長期的な利益を得たいとのことであった。このプロジェクトと、ご寄付をされた方による自分の家族と村へのご支援に、心から感謝したいと話された。

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▼応援先:ダルビッシュ有水基金▼

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【お問い合わせ先】

特定非営利活動法人 日本水フォーラム
TEL 03-5645-8040 FAX:03-5645-8041
office[at]waterforum.jp([at]を@に代えて送信してください)

(報告者:プロジェクトマネージャー 鈴木武二郎)

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