第10回世界水フォーラムフォローアップ会合:「バリからリヤドに向けて」参加報告

2025年2月27日から28日にかけて、第10回世界水フォーラムインドネシア事務局と世界水会議(WWC)の共催により、インドネシア・ジャカルタにて「第10回世界水フォーラムフォローアップ会合:バリからリヤドに向けて」が開催されました。世界水フォーラムは1997年の第1回開催以来、これまでに10回実施されてきましたが、フォーラム終了後にフォローアップ会合が開かれたのは今回が初めての試みです。

筆者は「アジア・太平洋水フォーラム」の一員として、第10回世界水フォーラムにおけるアジア太平洋地域プロセスの全体コーディネーターを務めたことから、共催機関より本会合に招待されました。本会合では、アジア太平洋地域プロセスの成果を発信するとともに、パネリストとして議論に参加しました。

以下、会合の結果を報告します。

1. 開会式 

開会式では、以下の代表者が挨拶を行いました。

  • Loic Fauchon WWC会長
  • Diana Kusumastuti インドネシア公共事業省副大臣
  • Abdulaziz Alshaibani サウジアラビア環境・水・農業省(MEWA) 水担当副大臣

Diana Kusumastuti インドネシア公共事業省副大臣は、インドネシアが大規模なインフラプロジェクトを通じて、水へのアクセス向上と強靭性の強化を目指し、水外交において大きな進展を遂げていることを強調しました。その代表的な成功例の一つが、水資源管理のための国家戦略プロジェクトであり、ダムの建設、灌漑システムの強化、水処理施設の整備などが含まれる。既存の課題を克服し、今後のグローバルな水外交の方向性を形づくるために、インドネシアでは、気候変動に強いインフラ計画の推進、SDG6を水政策の中心的な柱とすること、水の監視と管理におけるデジタル技術の活用、そして都市と農村の統合的な解決策の導入等において、革新的なアプローチが採用可能であると言及しました。

続いて、以下の要人による基調講演が行われました。

  • Retno L.P. Marsudi 国連水特使による特別講演
  • Loic Fauchon WWC会長による基調講演
  • Ayodhia G.L. Kalake インドネシア政府 インフラ・地域開発担当調整大臣による基調講演

Retno L.P. Marsudi国連水特使は、第10回世界水フォーラムのメッセージを今後のフォーラムへ継続していくことの重要性を強調し、本イベントが国連と世界水フォーラムが協力できる、また協力すべき入り口となる。規範を策定する機関である国連と、具体的な行動を促すために、戦略的に多様な利害関係者と緊密に連携する立場にあるWWCが協力することで、水に関する取り組みの実施が強化されると、両機関が協力していくことの重要性について強調しました。

2. ハイレベル対話

基調講演に続き、ハイレベル対話「世界水外交の展望:イノベーション、政策、未来に向けたグローバルコミットメント」が開催されました。この対話では、「何がうまくいき、何がうまくいかなかったか、そしてその理由」をテーマに議論が交わされました。

インドネシアからは、Diana Kusumastuti 公共事業省副大臣、Febrian Alfianto Ruddyard 国家開発計画局副大臣、さらに Basuki Hadimuljono 公共事業・住宅省元大臣(水と災害ハイレベルパネル(HELP)特別アドバイザー)がパネリストとして参加しました。また、サウジアラビア MEWA の Abdulaziz Alshaibani 水担当副大臣、「水の経済学」事務局長/国際委員長の Henk Ovink 氏、WWC タスクフォース「水と健康」議長の Ahmet Saatci 氏も登壇しました。

Basuki Hadimuljono 元大臣は、小島嶼における統合的水資源管理、ジョグジャカルタにある砂防技術センターを活用した水と気候レジリエンスに関する中核的トレーニング拠点を通じて、水資源管理協力と水の安全保障を確保していくことの重要性を強調しました。また、第10回世界水フォーラム「バリ閣僚宣言」、及び、バンドン精神に基づき、水分野におけるハイレベル会合の開催は、水資源管理の基盤を構築していくために不可欠である。また、能力向上と持続可能な水管理を促進するためには、国内外における政府と民間セクターの協力も欠かせないと言及しました。

Henk Ovink 氏は、水分野に関する会議が実際の行動を促し、水課題解決を優先することの決意が強調されることを期待する。水のレジリエンスを強化しSDGsに沿った水分野の発展を実現するためには、地域および世界レベルでの包括的な協力が不可欠と強調しました。

3.第10回世界水フォーラムの総括報告書の紹介と地域プロセスの成果共有

1日目の午後には、第10回世界水フォーラムの総括報告書の概要が WWC・第10回世界水フォーラム事務局代表から紹介されました。

続いて、「地域から広がる波及効果:地域の取り組みを活かしたグローバルな水問題への解決策」に関するパネルディスカッションが行われました。第1に、「アジア・太平洋地域」、「南・中央・北アメリカ」、「地中海」、「アフリカ」の4地域のプロセスコーディネーターが、それぞれの地域における成果報告を行いました。加えて、各地域の優れた取り組みや教訓を共有し、これらの解決策を他地域に展開・実装していく手法や、国際協力を推進していく上で重要なことに関する意見交換が行われました。

アジア・太平洋地域プロセスの報告とパネルディスカッション

アジア・太平洋地域プロセスの全体コーディネーターを務めた筆者は、第1ラウンドのパネルディスカッションにおいて、アジア・太平洋水フォーラム(APWF)としての地域プロセスの成果や、第10回世界水フォーラム後にコミットメントしている事項について紹介しました。

(参考:アジア・太平洋地域プロセスレポート

また、モデレーターからの「多様な関係者によるイニシアティブ」に関する先進事例ついての質問に対し、アジア・太平洋地域全体の取り組みとして「APWFの活動」、サブリージョンのイニシアティブとして「環礁地域の水の安全保障に向けた太平洋パートナーシップ」および「第4次アラル海流域支援プログラム」の事例を紹介しました。

パネルディスカッション第2ラウンドでは、パネリストが「地域の成功事例の拡大」について回答をしました。筆者は、「環礁地域の水の安全保障に向けた太平洋パートナーシップ」の事例を紹介しました。このパートナーシップは、小島嶼開発途上国(SIDS)の水安全保障課題に対応するために2014年に発足し、技術支援やインフラ整備を通じたレジリエンス強化を進めている。この取り組みは、地域協力と知識共有、適応型水管理、技術移転、政策強化、資金調達、コミュニティ参加の6つのアプローチにより、他の水脆弱地域(カリブ海、インド洋、アフリカ沿岸部)への適用が可能である。SIDSは、気候変動の国際交渉では協力している一方、水分野では国際的な連携が不足しているため、水の安全保障に向け、国際的な協働の必要性を強調しました。

パネルディスカッションの最後に、モデレーターが「地域間協力のためのキーメッセージ」と「今後の取り組みイベント」について質問。筆者は、政治的意思の重要性を強調し、「アジア・太平洋水サミット」の意義を紹介しました。

写真1:地域プロセスパネルディスカッションの様子

4. テーマ別プロセスの成果報告

会合2日目は、テーマ別プロセスコーディネーターによる6つのサブテーマの成果報告が行われ、各サブテーマ議論から得られた提言やWWF10以後の取り組みの進展が共有されました。

また、第11回世界水フォーラムをホストするサウジアラビアから、MEWAのAbdulaziz Ali Alqahtani水資源モデリング・研究部局長が登壇し、第10回世界水フォーラムにおけるインドネシアの努力・コミットメント・イノベーションをスライドにまとめ、これらの成果をどのように第11回フォーラムに活かしていくかについての意気込みが共有されました。

5. 閉会式

閉会式では、以下の代表者が挨拶を行い、今後の展望について述べました。

  • Benedito Braga WWC名誉会長
  •  Lilik Retno Cahyadiningsihインドネシア公共事業省水局長
  • Abdulaziz AlshaibaniサウジアラビアMEWA水担当副大臣
  • Loic Fauchon WWC会長
  • Diana Kusumastuti インドネシア公共事業省副大臣

Benedito Braga WWC名誉会長は、水外交の強化とは、必ずしも国際協定や条約の締結を意味するものではなく、水に関する課題そのものについて、オープンな姿勢で知見を共有し、相互理解を深めることが重要である。また、持続可能な水解決策を見出すための対話の過程で、水の安全保障に加え、食料やエネルギーの安全保障、生物多様性保全、資金調達、ガバナンス、官民パートナーシップといった多様な分野における成功事例や実践からの学びも必要である。新たな課題も明確になりつつあるが、私たちは、制度的な障壁を越え、より積極的かつ大胆に協力を拡大していかなければならないと強調しました。

インドネシア公共事業省のLilik Retno Cahyadiningsih水資源局長は、持続可能な水管理への取り組みを強化するための主要なフォローアップ行動として、第10回フォーラムの成果の実施、国際協力の強化、バリからリヤドへの橋渡し、行動指向の戦略、国民の意識向上と利害関係者の参画等があげられる。今後は、水資源管理における政策適応から技術革新に至るまで、議論された提言の実施に注力していくと述べました。

Abdulaziz AlshaibaniサウジアラビアMEWA水担当副大臣は、この2日間の議論と会議は、さまざまな利害関係者や地域社会との協力を通じて、持続可能な水の解決策を実施するというインドネシア・WWC・サウジアラビアの共同のコミットメントを強化するものとなった。持続可能性の重要性を再認識するとともに、SDG6の達成に向けた取り組みにおいて、目標や共同行動に包括性の原則を取り入れることの意義を確認した。私たちは、革新的かつ包括的で、行動指向の原則を基盤とし、第11回世界水フォーラムで提起されたテーマ『より良い未来のための行動』をさらに発展させ、具体的な実践へとつなげていくと締めくくりました。

6.おわりに

本会合を通じて、第10回世界水フォーラムの成果を、2027年にサウジアラビアのリヤドで開催される第11回世界水フォーラムへと確実に引き継ぐための取り組みや道筋が提案され、持続可能な水管理に向けた国際協力の重要性が改めて強調されました。 また、本会合では、次回フォーラムを見据え、インドネシア、サウジアラビア、WWCが持続可能な水解決策の実現に向けた共同コミットメントを再確認するとともに、第10回世界水フォーラムをホストしたインドネシアの関係機関が、国内の水課題解決に向けた強い決意を示したことも、大きな意義を持つものとなりました。

本会合での議論を踏まえ、日本水フォーラムは、今後も持続可能で包括的な水管理の実現に向けた具体的な行動を加速し、国際的な協力のさらなる強化を図ってまいります。

写真2: Diana Kusumastutiインドネシア公共事業省副大臣による開会挨拶
写真3:ハイレベル対話「世界水外交の展望:イノベーション、政策、未来に向けたグローバルコミットメント」の様子
写真4: テーマ別プロセスの成果報告
写真5:サウジアラビアMEWA Dr. Abdulaziz Ali Alqahtani水資源モデリング・研究部局長による発表

(報告者:チーフマネージャー 朝山由美子)

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