世界における水問題とは
私たちはどのような水問題に直面しているのでしょうか。
- 水と衛生 :特に途上国における水と衛生の問題
- 水関連災害 :気候変動による豪雨の激甚化、頻発化
- 水不足 :人口増加や気候変動による干ばつの増加
- 水質汚濁 :産業構造の変化や人口増加による水質の悪化
出典:WHO and UNICEF, Progress on household drinking water, sanitation and hygiene 2000-2020: five years into the SDGs
UNDRR, The human cost of disasters: an overview of the last 20 years (2000-2019)
一方で、私たちの社会は、この数百年間でどう変わってきたのかー
- 人口増加
- 近代化・工業化によるエネルギー消費量の増加や様々な事業の集約化
- 農地・緑地の減少
- 特に都市部での舗装面(アスファルト面・コンクリート面)の増加
水問題の影響を受けやすい社会へと変化してきました。
- 雨水等の流出増大により下流での氾濫リスク上昇
- 浸透水の減少による地下水位の低下
こうした課題解決方法として注目されているのがNBS(Nature based Solutsions)
すなわち自然システムの活用です。
下の図では、流域の様々な場所における、水管理のための自然を活用した解決策の例を示しています。
出典:UN-Water. The United Nations World Water Development Report 2018: Nature-Based Solutions for Waterを加工して作成
日本での取組
千歳川における河岸の植生復元・遊水地群整備による洪水緩和(北海道)
千歳川では北海道開発局により、河川事業の整備として生態系を利用した防災・減災の取組(ECO-DRR)実施されています。
洪水が発生しやすい千歳川中・下流域に対し、住民も交えた検討を協議した結果、流域に治水機能がある遊水地を設けることが決定されました。これにより6カ所の遊水地が整備され、2020年度からは全6地で使用が開始されています。
6遊水地の洪水調節容量は約5千万m3にものぼります。
下は舞鶴遊水地(左)、江別太遊水地(右)の写真であり、赤点線部内が遊水地です。
遊水地整備による効果
治水・防災
雨量が大幅に増加した際には、遊水地に水を一時的に貯め川の水位を下げることで浸水被害を軽減させています。
例)2014 年 9 月には、遊水地を利用することで流域の約 115ha の浸水被害を防ぎました。
生態系保存
教育活動(自然体験学習の場・子供の水辺再発見プロジェクト」等の活動)
生物の生育・生息地(タンチョウの生息地として期待されている)
出典:環境省ウェブサイトhttps://www.env.go.jp/nature/biodic/eco-drr/pamph03.pdf
北海道開発局札幌開発建設部ウェブサイト:https://www.hkd.mlit.go.jp/sp/kasen_keikaku/kluhh40000001qfy.html, https://www.hkd.mlit.go.jp/sp/titose_kasen/gburoi000000dpyr.html#s2
松浦川アザメの瀬 自然再生(佐賀県)
松浦川では、国土交通省九州地方整備局によりアザメの瀬の再生が取り組まれています。
アザメの瀬地区は、松浦川中流部に位置し、これまでたびたび水害に悩まされてきました。洪水に悩まされていた上流部の河川改修を進めるためにもこの地区の改修が必要となっていました。
川幅を広げ堤防を築くと、この地区の水田はほとんど河川用地となりなくなってしまいます。そこで、水田を買収し、堤防を築くのをやめてこの場所全体を洪水が流れてもよい氾濫原としました。
河川の氾濫原的湿地の自然再生によって、人と生物のふれあいの再生を
目指す取組です。
出典:国土交通省九州地方整備局武雄河川事務所ウェブサイト:https://www.qsr.mlit.go.jp/takeo/azame
国外での取組
インドのガンジス川上流、ラムガンガ川流域のジワイジャディッド村
この地域では6~9月のモンスーンの時期には雨量が多く、それ以外の時期は水不足に悩まされています。主な水源は地下水ですが、水源の枯渇が懸念されてきました。
この問題を解決するために、河川と地下水・帯水層※1をリンクしたNbS、UTFI※2が導入されています。
このNbSは、雨量の季節変動が大きい地域において、涵養※3を行うことで洪水と干ばつの被害をやわらげ、また同時に地下水の利用可能性を高めることができる解決方法です。
※1 帯水層:地下水で満たされた透水性が比較的良い地層
※2 UTFI : Underground Transfer of Floods for Irrigation 多すぎる水を灌漑のために地下で移動させること
※3 涵養 :地表の水が地下に浸透すること
雨季には ⇒ 過剰な流出水を地下の帯水層に貯める
乾季には ⇒ 地下に貯められた地下水を利用する
通常の池の底から涵養のみと比較すると、涵養井戸を使用することで3~7倍の量の水を涵養することができています。また、流域の洪水リスク低減にも効果が見込まれています。
その仕組みは下の絵のようになっています。
運河や河川から流れ込んだ水が、池に設置された涵養井戸を経て帯水層へ涵養されます。直接帯水層へ流れこむことで、より多くの水を涵養することができます。
UTFIは、世界的に多くの国や地域で最優先とされている気候変動適応や災害リスク低減に関連する幅広い問題に対する、分野横断的な解決法として期待されています。
効果が期待されている分野
・気候変動適応
・流域管理
・食/水の安全保障
・災害リスク低減
・貧困削減
出典:IWMI Briefs Underground Transfer of Floods for Irrigation (UTFI): A solution for climate-adaptation ready to scale up in India, IWMI,を加工して作成
IWMI, Underground Transfer of Floods for Irrigation (UTFI): Exploring Potential at the Global Scale
一方、こうした取組には、広大なスペースが必要であることも多く、地域の関係者や住民との協力も欠かせません。また、自然を活用した取組では対処できない問題もあります。
水問題は地域ごとに地形や気候、人々の水利用等、様々な要素から影響を受けるものであり、それぞれに合わせて対策を講じる必要があります。グレーインフラと呼ばれる人工構造物と、自然の活用を組み合わせながら、最善の解決策を探していくことが必要だと言えます。
自然を活用した解決策の意義
気候変動の影響
気候変動は、地球環境に様々な影響を与え始めています。
世界はこの問題に対処するために、気候変動の原因とされるCO2などの温室効果ガスの排出を抑制し、「平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」ことを目標にしました。
しかし、この目標を達成できたとしても、今よりも激しい災害に見舞われることが予測されています。
日本でも、気候に変化がみられています。
例えば、最近30年間(1977~2006年)と20世紀初頭の30年間(1901~1930年)を比較すると・・
大雨の増加:日降水量200mm以上の日数は約1.4倍に増加
極端な雨が多い年と雨が少ない年の増加:年間降水量の変動幅が約1.4倍に増加
出典:気象庁ウェブサイト:https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/riskmap/heavyrain.html, https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/riskmap/sfc_wetdry.html
気候変動時代の私たちの課題
温室効果ガスの排出を抑制するため、化石燃料由来の強力なエネルギーに支えられてきた従来の現代社会の形を継続することは困難になりました。そして、すでに現実になりつつある、水災害など今よりも激しくなる脅威をどう乗り越えていくか、真剣に考えるときが来ています。
気候変動への適応を目指して
その解決策の一つは、自然との付き合い方を見つめ直し、自然の活かし方を考えることではないでしょうか。
右の写真は「聖牛」が富士川に設置されている様子です。
聖牛とは、丸太を三角形に組み、じゃかごに石を詰め込んだシンプルな構造です。
これを川の中に置くことで、激流を弱めることができ、また護岸や堤防を守る効果もあります。
もともとは武田信玄が考案したといわれていますが、他の地域にも次々と伝わり、現在でも各地で活用されています。この聖牛は自然由来の材料を使用したものであり、またこの設置によって周辺環境に大きく影響を与えることもないことから、自然を活かした方法であるといえます。
出典:関東地方整備局ウェブサイト https://www.ktr.mlit.go.jp/koufu/koufu_index033.htmlを加工して作成
私たちの先人たちは、このようにして、自然と共生し、自然が持っている力を有効に活用し、災害の脅威を乗り越え、豊かさを育んできました。こうした先人たちの知恵や技術は、現代の「自然を活かした解決策」にも大いに活用されています。
先人たちの知恵や技術にも学びながら、私たちにとっての持続可能な社会の姿を考えてみませんか。
このコンテンツは、公益財団法人 河川財団の河川基金の助成を受けています。